ポリネシア神話
ポリネシア神話は、太平洋中南部に散らばる諸島の人々が語り継いだ神々と世界の始まりをめぐる物語の総体である。ハワイ、アオテアロア(ニュージーランド)、ラパ・ヌイ(イースター島)を頂点とする広大な三角海域に暮らす人々は、共通の祖語(ポリネシア祖語)に遡る一群であり、その神話も共通の核を分かちもつ。だが島ごとの隔たりは大きく、単一の「ポリネシア神話」があるわけではない。
舞台はこの三角海域の全体で、ほかにサモア・トンガ・タヒチ・クック諸島・マルキーズ諸島などを含む。人々は前2千年紀に西ポリネシア(サモア・トンガ)へ、さらに数世紀をかけて島伝いに東へ広がり、アオテアロアやハワイ、ラパ・ヌイへの到達は後1000〜1300年頃とされる。
この神話には聖典も教団もなく、文字による原典もない(ラパ・ヌイのロンゴロンゴは未解読の例外である)。伝承は系譜の詠唱や呪文——マオリのカラキア、ハワイの創世詠唱クムリポ——として口伝えに保たれた。今日読める形にまとめられたのは、多くが19世紀である。マオリ神話では、植民地総督ジョージ・グレイが集めた『ニュージーランド人の祖先の行い』(1854年)と、その英訳『ポリネシア神話』(1855年)が、広く知られる筋書きの土台になった。ハワイでは宣教師ウィリアム・エリスの記録に始まり、フォルナンダーやベックウィット『ハワイ神話』(1940年)が集成にあたった。つまり今日「ポリネシア神話ではこうだ」と語られる筋の多くは、信仰の外にいた収集家の手を経ている。北欧神話がキリスト教徒の筆録に負うのと同じ事情が、ここにもある。なおハワイやマオリの伝統は今日も担い手をもつ生きた文化であり、過去の遺物として扱うべきではない。
神々は島々で同源の名を変えて現れる。森と光の神タネ(ハワイのカネ)、海の神タンガロア(同カナロア)、農耕と平和の神ロンゴ(同ロノ)、そして戦いの神トゥ(同クー)がその代表で、これらは各地に共通する古い層をなす。島々を釣り上げ、太陽を捕らえ、不死を求めて命を落とす半神マウイも広く共有される。天空の父と大地の母が抱き合い、その子らが両親を押し分けて世界に光を入れるという創世は、マオリの戦神トゥ・マタウエンガをめぐる伝承に典型を見る。一方で各島は独自の神格も育てた。ハワイの火山女神ペレ、ラパ・ヌイの創造神マケマケは、共通の枠には収まらない土地固有の神である。共通の核と土地ごとの分化——この二重性がポリネシア神話の骨格である。
美術では木彫(マオリのファカイロ、各地のティキ像)、樹皮布タパ、そして入れ墨がよく知られる。英語のtattooはポリネシア語のtatauに由来し、ラパ・ヌイの巨石像モアイもこの文化圏の産物である。言葉の面でも、聖と禁忌を表すタプは英語のtaboo(タブー)に、霊力を表すマナは人類学の基礎語になった。近代以降は文化復興運動のなかで系譜と口承が編み直され、現代の映画やゲームも半神マウイら汎ポリネシアの英雄を題材にしている。ただしそこに描かれる神々の像は、19世紀の収集と現代の脚色という二重の濾過を経たものであることを、勘定に入れておきたい。
この体系の神格・幻獣
40柱を収載(知名度順)
ポリネシア神話
マケマケ
Makemake — 創造神・主神
PLATE
ポリネシア神話
ペレ
Pele — 火神
PLATE
ポリネシア神話
トゥ・マタウエンガ
Tūmatauenga — 軍神
PLATE
ポリネシア神話
マウイ
Māui — 火
PLATE
ポリネシア神話
タンガロア
Tangaroa — 海
PLATE
ポリネシア神話
タネ
Tāne — 森
PLATE
ポリネシア神話
ランギとパパ
Ranginui rāua ko Papatūānuku — 天と地
PLATE
ポリネシア神話
ヒネ・ヌイ・テ・ポ
Hine-nui-te-pō — 夜
PLATE
ポリネシア神話
クー
Kū — 戦
PLATE
ポリネシア神話
ロノ
Lono — 豊穣
PLATE
ポリネシア神話
カーネ
Kāne — 創造
PLATE
ポリネシア神話
カナロア
Kanaloa — 海
PLATE
ポリネシア神話
ヒナ
Hina — 月
PLATE
ポリネシア神話
ティキ
Tiki — 最初の人間
PLATE
ポリネシア神話
ロンゴ
Rongo-mā-Tāne — 栽培植物
PLATE
ポリネシア神話
タウィリマーテア
Tāwhirimātea — 嵐
PLATE
ポリネシア神話
ハウミア・ティケティケ
Haumia-tiketike — 野生植物
PLATE
ポリネシア神話
ウィロ
Whiro — マオリ
PLATE
ポリネシア神話
マフイカ
Mahuika — マオリ
PLATE
ポリネシア神話
ウエヌク
Uenuku — マオリ
PLATE
ポリネシア神話
レフア
Rehua — マオリ
PLATE
ポリネシア神話
ティニラウ
Tinirau — ポリネシア
PLATE
ポリネシア神話
ヒネモア
Hinemoa — マオリ
PLATE
CREATURE
ポリネシア神話
タニファ
Taniwha — マオリ
PLATE
ポリネシア神話
マタリキ
Matariki — マオリ
PLATE
CREATURE
ポリネシア神話
ハワイキ
Hawaiki — ポリネシア
PLATE
ポリネシア神話
クペ
Kupe — マオリ
PLATE
ポリネシア神話
ワーケア
Wākea — ハワイ
PLATE
ポリネシア神話
パパハーナウモク
Papahānaumoku — ハワイ
PLATE
ポリネシア神話
ヒイアカ
Hiʻiaka — ハワイ
PLATE
ポリネシア神話
ナーマカ
Nāmaka — ハワイ
PLATE
ポリネシア神話
カマプアア
Kamapuaʻa — ハワイ
PLATE
ポリネシア神話
ポリアフ
Poliʻahu — ハワイ
PLATE
ポリネシア神話
ラカ
Laka — ハワイ
PLATE
CREATURE
ポリネシア神話
メネフネ
Menehune — ハワイ
PLATE
CREATURE
ポリネシア神話
ナイトマーチャー
Huakaʻi pō — ハワイ
PLATE
ポリネシア神話
ナファヌア
Nafanua — サモア
PLATE
ポリネシア神話
ヒクレオ
Hikuleʻo — トンガ