ヒネ・ヌイ・テ・ポ
ヒネ・ティータマ · ヒネヌイテポ · Hine-nui-te-pō
マオリ神話の夜と死の女神。父タネに知らず妻とされ、真相を知って冥界へ去った。不死を求めて身体を通り抜けようとしたマウイを押し潰し、人が死ぬ理由となった。
解説
概要
ヒネ・ヌイ・テ・ポ(Hine-nui-te-pō、「夜の大いなる女」)は、マオリの伝承における夜の女神で、人が死ぬとその霊を迎える。タネ・マフタとヒネ・アフオネの娘である。
霊(ワイルア)をラロヘンガ——冥界——の第一層へ導き、次の段階の旅へ備えさせる。ヒネ・ヌイ・テ・ポとなる以前の名は、ヒネ・ティータマであった。
神話・物語
ヒネ・ティータマは、父タネと、土から作られた最初の女ヒネ・アフオネの第二子である。父娘の関係を知らぬまま、タネは娘を求めて妻とし、二人のあいだにヒネ・ラウファーランギが生まれた。
夫が実は父であると知ったとき、その裏切りと衝撃によって、彼女は生者の世界を去り、冥界へ下った。そこでヒネ・ヌイ・テ・ポ——夜の女神、霊の守護者にして母——となった。
マウイとの対決。 人に不死を与えようとしたマウイは、女神が眠るあいだにその身体を通り抜けようとした。女性器から入って口から出れば、死は克服されると考えたのである。マウイは蜥蜴に姿を変えて入り込んだが、同行した扇尾鳥(ピーワカワカ)がその姿を見て笑った。目覚めた女神は、黒曜石の歯を持つ女性器でマウイを押し潰した。
こうしてマウイは死に、人は不死を得られなかった。
図像と象徴
本サイトが掲げるのは、ヴィルヘルム・ディットマー『テ・トフンガ』(1907年)の挿絵「マウイを殺すヒネ・ヌイ・テ・ポ」である。
この女神を規定するのは、生から死への転移である。生者の世界で裏切られた者が、自ら冥界へ去って死の守護者となる。死は罰でも敵でもなく、傷ついた者が選んだ場所である。
マウイの死の物語は、死の起源譚であると同時に、生の側からの死の克服の失敗を語る。トリックスターの最後の策略が、笑い——扇尾鳥の——によって破られる。
関わる神格・伝承
父はタネ、母はヒネ・アフオネ。娘はヒネ・ラウファーランギ。マウイを殺した。
ハワイのミルやカナロアなど、他のポリネシア文化の冥界の神格とは、性格を異にする。マオリの冥界の女神は、恐ろしい存在であると同時に、霊を迎え入れる母でもある。
文化的足跡
ニュージーランドでは、この女神の物語は今日も語り継がれている。父娘の物語は、近代以降のマオリの詩や演劇において繰り返し扱われた。
なおマオリの信仰は、今日まで続く生きた伝統である。