ウィロ
ウィロ · ウィロ・テ・ティプア · Whiro
マオリ神話の闇の主にしてあらゆる悪の体現。蜥蜴に似た姿で冥界に住み、死者の身体を食うたびに強くなる。兄弟にして敵であるタネが天から知識の籠を持ち帰るのを妨げた。善悪の対立という枠組みには宣教師の影響も指摘される。
解説
概要
ウィロ・テ・ティプア(ウィロとも)は、マオリ神話における闇の主にしてあらゆる悪の体現である。
通常は蜥蜴に似た生き物として描かれ、冥界に住み、人のあらゆる病と災いをもたらす。兄弟にして敵であるタネと対をなす。
一部の部族の伝えによれば、人が死ぬと、その身体は冥界へ降り、そこでウィロに食われる。ウィロは身体を食うたびに強くなる。この過程によって、やがて彼は冥界を破って出るほどの力を得るという。
タネとの争い
ウィロとタネは、天の父と地の母ランギとパパの子で、兄弟である。タネが天へ昇り、最も高い天から三つの知識の籠を持ち帰ろうとしたとき、ウィロはこれを妨げようとした。虫や害虫の軍勢を放ってタネを襲わせたが、タネは風の助けを借りてこれを退け、知識を地上へもたらした。それ以来、ウィロは冥界に退いて、タネを憎み続けているという。タネが森と光と命を司るのに対し、ウィロは闇と病と死を司る。マオリの宇宙観のなかで、最もはっきりとした対立である。
病と災い
あらゆる病や災い、そして人の悪しき心は、ウィロのせいだとされる。戦に出るときや病のときには、ウィロを退ける儀礼が行われ、その名を口にすることは避けられた。マオリの人々のあいだでは、蜥蜴は不吉な生き物とされ、ウィロの化身と考えられた。蜥蜴を見ることは悪いことの前触れであった。ポリネシアのほかの島々では蜥蜴が神聖視されることもあり、マオリの扱いとは対照的である。
図像と象徴
固有の図像は伝わらず、本サイトも主画像を掲げない。ウィロを「あらゆる悪を体現する者」とする記述は、19世紀以降の記録に基づくものである。記録される過程で、キリスト教の悪魔の考えが影響した可能性が指摘されている。マオリの伝統では、神々は善と悪に分けられるよりも、それぞれが受け持つ領域と力によって区別されるのが一般的である。
関わる神格・伝承
タネの兄弟にして敵。ランギとパパの子。
文化的足跡
「ウィロ」はマオリ語の月名の一つでもあり、月が見えない夜(新月)を指す。闇の主の名が、闇の日を指す。
なおマオリとハワイの伝統は今日も継承されている生きた文化であり、本項の記述はその神格の伝承に関する学術的な整理である。
領分・別名
親・配偶者・子までを表示(全体はフル系図ページへ)。実線=主要伝承/点線=異伝・別系統。