マウイ
マーウイ · マウイ (ポリネシア神話) · Māui
ポリネシア全域の文化英雄にしてトリックスター。冥界から火を盗み、魔法の釣針で島を釣り上げ、太陽を捕らえて昼を長くした。死の女神に押し潰されて死に、人が死ぬ理由となった。
解説
概要
マウイ(Māui)は、ポリネシア神話における偉大な文化英雄にしてトリックスターである。実際に崇拝されることはきわめて稀で、神(半神)というより民間の英雄に近い。
出自は文化によって異なり、両親、神格の有無、主要な神話の細部に変異がある。しかし主だった事績の多くは、ポリネシア全域で比較的よく似ている。
神話・物語
マウイの冒険の物語は、ポリネシアのほぼ全域で語られ、西はニューギニア沖の島々にまでさかのぼることができる。多くの伝承に共通する手柄は三つある。人間のために火を手に入れたこと、魔法の釣り針で島を釣り上げたこと、そして太陽を捕らえて昼を長くしたことである。
マオリの伝承では、マウイは祖母の顎の骨で作った釣り針を用い、兄たちの舟から巨大な魚を釣り上げた。これがニュージーランドの北島で、「テ・イカ・ア・マウイ」(マウイの魚)と呼ばれ、南島はその舟「テ・ワカ・ア・マウイ」と呼ばれる。兄たちが待ちきれずに魚を切り刻んだため、山と谷ができたという。ハワイでは、マウイが釣り上げたのはハワイの島々である。
太陽が空をあまりに速く駆けて昼が短かったため、マウイは兄たちと縄を編み、太陽が昇ってくる穴で待ち伏せて縄をかけ、顎の骨で打ちすえた。それ以来、太陽はゆっくり進むと約束したという。
マウイは、火の女神マフイカ(ハワイでは火の神)から火を手に入れた。マオリの伝承では、マフイカの指の爪に宿る火を一本ずつだまし取り、最後に怒った女神が放った火が大地を焼いた。火は木々のなかへ逃げ込み、それ以来、人は木をこすり合わせて火を起こすのだという。
マオリの伝承では、マウイは人に不死を与えるため、眠っている死の女神ヒネ・ヌイ・テ・ポの体を通り抜けようとした。ところが、ついてきた扇尾鳥(ピワカワカ)が思わず笑い、目を覚ました女神に押しつぶされて、マウイは死んだ。人が死ぬのは、このためだという。
図像と象徴
本サイトが掲げるのは、アルマン・マヌーキアンが1927年ごろに描いた《太陽を捕らえるマウイ》(ホノルル美術館蔵)である。
固有の古い図像は伝わっていない。マオリの彫刻には釣針と魚の主題がしばしば現れるが、マウイを名指した古い作例は知られない。
象徴の中心は釣針である。ハワイでは魚釣り針の形の護符(マカウ)が、マオリでは翡翠の釣針形の首飾り(ヘイ・マタウ)が、この物語と結びつけられる。
トリックスターとして、マウイはずる賢く、規則を破り、しかし人々の生活を改善する。火、昼の長さ、土地——人が生きるための条件が、いずれもその策略によって得られている。
関わる神格・伝承
マオリでは母はタランガ、父は冥界に住むマケアトゥタラで、四人の兄と姉のヒナがいる(ヒナを妻とする版もある)。月足らずで生まれて母に海へ投げ入れられ、海の精霊が海藻でくるんで守ったのち、祖父タマ・ヌイ・キ・テ・ランギに拾われて育てられたという。ハワイ(『クムリポ』)では、アカラナとヒナの子とされる。両親と兄弟の名は地域によって異なる。
ヒネ・ヌイ・テ・ポとの対決が、マオリにおける死の起源譚である。
トンガでは、マウイが珊瑚の島々を釣り上げ、兄弟とされる冥界の神ヒクレオが火山の島々を造ったとされる。
文化的足跡
ハワイのマウイ島は、この英雄の名を負う。ニュージーランドの北島を「マウイの魚」と呼ぶ名は、今日も公式の地名の一部である。
2016年のディズニー映画『モアナと伝説の海』で、マウイは主要な登場人物として世界に広まった。ただし映画の造形は伝承から大きく離れている。
日本語圏でも、この映画を通じて名を知る人が多い。伝承上のマウイが火・太陽・土地をもたらした英雄であること、そして死の起源に関わることは、映画からは伝わらない。
なおポリネシアの伝統は今日も継承されている生きた文化であり、本項の記述はその伝承に関する学術的な整理である。
領分・別名
親・配偶者・子までを表示(全体はフル系図ページへ)。実線=主要伝承/点線=異伝・別系統。