ヒナ
シナ · イナ · ヒナ (女神)
ポリネシアの多くの女神に与えられた名で「女性の神的な力」を指す称号。マオリではマウイの姉妹か妻、ハワイではクーの妻で月の女神。月に住んで樹皮布を打つという主題が全域に分布する。
解説
概要
ヒナ(Hina)は、ポリネシアの島々で数多くの女神に与えられた名で、何かを治める力をもつ女性——女神や女王——を広く指す。地域によってはシナ、イナ、ハナイアカマラマの形をとる。
一つの文化のなかに何柱ものヒナがいることも珍しくない。ハワイでは名に働きを表す語を添えて呼び分けた。魚を集めるヒナ(ヒナ・プク・イア)は漁師の女神であり、ヒナ・オプ・ハラ・コアは礁に棲む生き物をすべて産んだとされる。
神話・物語
ニュージーランドのマオリの諸部族のあいだで、ヒナはふつうマウイの姉、あるいは妻とされる。最もよく知られる物語では、ヒナが水浴びをする池に、すべての鰻の父テ・トゥナロアがやって来て、ヒナに体をこすりつけた。これが何度も繰り返されたため、ヒナがマウイに告げると、マウイは鰻を待ち伏せして殺した。その頭を海に投げると海の鰻に、尾を川に投げると淡水の鰻になり、血を木々に撒くと、その木々の芯が赤くなったという。
ハワイでは、ヒナは月の女神である。伝承によれば、地上で夫と子どもたちに疲れたヒナは、虹を伝って太陽へ昇ろうとしたが、あまりの熱さに果たせず、月へと昇った。それ以来ヒナは月に住んでいる。月の影は、ヒナが樹皮布(タパ)を打つ姿だとされる。ハワイでヒナはクーの妻でもあり、クーとヒナは、男と女の原理の対として、東と西、昇る太陽と沈む太陽に対応している。タヒチでも、ヒナは月に住んで樹皮布を打つとされ、マオリの版と共通する主題を持っている。
図像と象徴
本サイトが掲げるのは、ポール・ゴーギャンが1894年に制作した《マルル(感謝)》で、タヒチの神像に供物を捧げる人々が描かれている。
固有の古い図像は伝わっていない。ゴーギャンがタヒチで描いた《ヒナ》の連作があるが、ゴーギャン自身の解釈による。
この女神を規定するのは、月と樹皮布である。月に住む女が布を打つという主題は、ポリネシア全域に分布する。樹皮布作りが女性の仕事であったことが、月の影の解釈に反映されている。
複数の女神が同じ名を持つという事態は、ヒナが固有名というより「女性の神的な力」を指す称号であったことを示す。
関わる神格・伝承
マオリではマウイの姉または妻。ハワイではクーの妻、あるいはマウイの母。
ヒナの名を持つ女神は、ヒナ・ヌイ・テ・ポ(ヒネ・ヌイ・テ・ポ)をはじめ、多くの複合名として現れる。ヒネはヒナのマオリ語形である。
マオリなどの伝承で、ヒナの夫とされるのが、魚の主ティニラウである。
文化的足跡
ゴーギャンの絵画を通じて、ヒナの名は西洋美術史に入った。《ヒナ・テファトゥ》(1893年)など、タヒチの神話をゴーギャン流に解釈した作品群がある。
なおポリネシアの伝統信仰は、今日も各地で継承されている。
領分・別名
親・配偶者・子までを表示(全体はフル系図ページへ)。実線=主要伝承/点線=異伝・別系統。