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アポローン
PLATE — ἈΠΌΛΛΩΝ
HELLAS · ギリシア神話
ἈΠΌΛΛΩΝ

アポローン

アポロン · アポロ · ポイボス

Livioandronico2013 CC BY-SA 4.0

ギリシア神話の神。予言・音楽・弓射・医術を司り、デルポイの神託所の主として古代世界に並ぶもののない権威をふるった。疫病の矢を放つ神が、同時に病を癒す神でもある。

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解説

概要

アポローン(Ἀπόλλων / Apollōn)は、ゼウスレートーの子、狩猟の女神アルテミスの双子である。予言、音楽、弓射、医術、牧畜、若者の守護と、一柱が担うには広すぎる領分をもつ。この幅は複数の神格が重なった痕跡と見られている。名はギリシア語から説明がつかず、母レートーは本来小アジアの女神で、ヒッタイト文書の神名アッパリウナスとの関係も論じられてきた。『イーリアス』でアポローンが終始トロイア側に立ち、ギリシア勢の陣に疫病の矢を射込むところから物語が始まるのは、この出自と無縁ではない。

神話・物語

ホメーロス風讃歌』のアポローン讃歌によれば、ヘーラーに追われたレートーは産所をどこでも拒まれ、痩せた岩島デーロスだけが彼女を受け入れた。ただし生地には異伝があり、タキトゥスはエペソス近郊のオルテュギアを主張する土地の言い分を書き留めている(『年代記』III 61)。

生後まもなく、アポローンはパルナッソスの麓へ赴き、地の女神の聖地を守る大蛇ピュートーンを射殺して神託所を奪った(デルポイの神託)。ギリシア最大の宗教的権威は、他神の聖地の簒奪として語り出される。

恋の物語はことごとく破綻する。ダプネーはエロースの鉛の矢に射られてアポローンの愛を拒み、追いつめられて月桂樹に姿を変えた(オウィディウス『変身物語』I。父を河神ペーネイオスとするのが主流だが、アルカディアのラードーンの娘とする伝えもある)。カッサンドラーは予言の力を受け取ってから彼を拒み、「誰にも信じられない」呪いを負った。円盤の直撃で死んだ少年ヒュアキントスの血からはヒヤシンスが咲き、スパルタでは初夏にヒュアキンティア祭が営まれた。

子アスクレーピオスは医術を極め、ついに死者を蘇らせて冥界の均衡を乱し、ゼウスの雷霆に撃たれる。怒ったアポローンは雷霆を鍛えたキュクロープスたちを射殺し、罰として人間の王アドメートスのもとで牧夫として働いた。奉公の期間は一年とも、八年周期の大年とも、九年ともいい、そもそもピュートーン殺しの贖いだとする異伝もある。どちらの罪への罰かは定まらない。

図像と象徴

持物は弓矢と竪琴(キタラー)、そして予言を示す三脚台である。頭には月桂冠、傍らには生誕の地の棕櫚。聖獣は狼・イルカ・白鳥・鴉・蛇と数が多く、ここにも複数の性格の重なりが見える。

造形の核心は、髭のない裸体の青年という一点にある。前7〜前6世紀のクーロスが19世紀に一括して「アポローン像」と呼ばれたのは、裸の若者の像であればこの神と考えるほかないほど、両者が分かちがたかったからである。前5世紀以降、竪琴を抱えるキタローイドス型と、弓を引き絞る型が定型化する。髪を長く垂らした姿は、成人にあたって髪を切り神へ捧げる慣習の裏返しであり、永遠に成人しない神を示す標識である。

ローマ期の模刻《ベルヴェデーレのアポローン》は15世紀末にアンティウムで再発見され、ヴィンケルマン以降は古代彫刻の頂点と評された。18〜19世紀のヨーロッパが「ギリシア的なもの」として思い描いた姿は、多くこの一体に由来する。

図像上の最大の変化は太陽との結合である。前5世紀にヘーリオスとの同一視が始まり、ローマ期には放射冠をいただく姿が定着する。放射光は本来この神の持物ではなく、後から重ねられたものである。

系譜と関係

父ゼウス、母レートー(ティーターン神族コイオスポイベーの娘)、双子のアルテミス。子にアスクレーピオス、詩人オルペウス(異伝ではトラキア王オイアグロスの子)。

ローマは前5世紀、南イタリアのギリシア植民市クーマエを経由してこの神を受け入れた。ギリシア名がラテン語でもそのまま用いられた唯一の主要神である(Apollō)。ゼウス=ユーピテルのような読み替え(インテルプレタティオ・ロマーナ)が起きなかったのは、重ねるべき在来の神がいなかったからである。エトルリアではアプル(Aplu)と呼ばれた。エジプトについては、ヘロドトスがホルスをアポローンの名で記している(『歴史』II 156)。ヘーリオスとの関係は後代の融合であって、系譜上は別の神格である。

文化的足跡

ローマでは前433年の疫病を受け、前431年に最初の神殿が医神アポロー(アポロー・メディクス)に献じられ、前212年、第二次ポエニ戦争のさなかにアポローン競技祭が創設された。アウグストゥスはアクティウム沖の勝利をこの神の加護に帰し、前28年、自邸に隣り合うパラーティーヌスの丘へ神殿を建てる。神託の神が帝国の守護神になった瞬間である。

ルネサンス以降は、ラファエロ《パルナッソス》の詩神たちを率いる姿と、ベルニーニ《アポロンとダプネー》の逃げる娘を追う姿が繰り返し描かれた。ニーチェは『悲劇の誕生』において、形式と理性のアポローン的なものを、陶酔のディオニューソス的なものと対に置いた。20世紀のアメリカが月へ向かう計画にこの名を選んだのも、遠くまで届く矢と光の連想による。現代の創作作品にも太陽と弓の神として登場するが、その造形は作品ごとの創案である。

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領分・別名

INTERPRETATIO — 同一視・同源
ホルス エジプト神話 同一視
interpretatio graeca。ヘロドトス『歴史』II 156 は、エジプト語でアポローンをホルス、アルテミスをブバスティスと呼ぶと明記する。ヘレニズム期のエジプトでも両者は同定された
ヘーリオス ギリシア神話 同一視
前5世紀以降、ギリシア内部で進んだ同一視。本来は別個の神格で、系譜も別(ヘーリオスはティーターン神族ヒュペリーオーンの子)。ローマ期に太陽神としての性格が定着した。P460 に無いため人手追加
ベレヌス ケルト神話 同一視
interpretatio romana。「アポロ・ベレヌス」の形で碑文に広く現れ、癒しの泉・神託の機能で重ねられた。ただしローマ期を通じて在来の信仰は一定の独立性を保っている。太陽神としての重ね合わせは *bʰelH- 由来の語源説に依存しており、語源が疑問視される今日では根拠が弱い。
ナブー メソポタミア神話 同一視
神託を授ける神としての側面から、ヘレニズム期にアポローンと同一視されることがあった。
モンチュ エジプト神話 同一視
太陽神としての輝きゆえアポローンにも重ねられた。軍神アレースとの同一視と併存する
ソーラーヌス ローマ神話 同一視
ウェルギリウス『アエネーイス』第11巻はソラクテの神をアポローと呼ぶ。アポロー・ソーラーヌス/アポロー・ソラクティスの名でファレリイなどに聖域があった。地下の神と光の神という二重の同定が並存する。
アプル エトルリア神話 同一視
名も図像もアポローンに対応するが、ギリシアから直接ではなくラテン語圏(おそらくプラエネステ)を経由して入った借用である。火山と冥界に通じる性格はエトルリア側の特徴。
グランヌス ケルト神話 同一視
約三十のラテン語奉献碑文に「アポロ・グランヌス」の形で現れる。カッシウス・ディオはカラカラ帝がアスクレピオス・セラピスと並べてアポロ・グランヌスに癒しを求めたと記す(interpretatio romana)。
マポノス ケルト神話 同一視
ブリタンニア北部の碑文の多くが「アポロ・マポノス」の形をとる。コルブリッジとリブチェスターの浮彫は竪琴を持つアポロを表し、竪琴を弾くアポロ(アポロ・キタロエドス)との等値として理解されてきた(interpretatio romana)。
ボルウォ ケルト神話 同一視
ガロ=ローマ期の温泉地の奉献に「アポロ・ボルウォ」の形で現れる。ブルボンヌ=レ=バンのアポロ・ボルウォとダモナへの奉献がその例で、癒しの神としてのアポローとの重ね合わせにあたる(interpretatio romana)。エクス=アン=プロヴァンスではボルマヌスの名でヘルクレースと重ねられた。

親・配偶者・子までを表示(全体はフル系図ページへ)。実線=主要伝承点線=異伝・別系統

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資料

Wikidata
Q37340 — 骨格データの出典
Commons
Apollo — 図像カテゴリ