ホルス
ヘル · ホル · ハルシエセ
古代エジプトの隼の神。王権と天空を体現し、生ける王ファラオは地上のホルスとされた。父オシリスの仇である叔父セトと王位を争い、勝ち取った正統の王である。
解説
概要
ホルス(ḥrw / Horus、エジプト語ヘル)は、古代エジプトの隼の神であり、王権と天空を体現する。生ける王ファラオは地上のホルスその人とされ、亡き王は父オシリスと同一視された。王の五つの名のうち最も古い「ホルス名」は、隼を戴く枠(セレク)に記され、王とこの神との一体を示した。
神話・物語
ホルスの物語の中心は、オシリスの殺害に始まる王位継承の争いである。弟セトに殺されたオシリスの妃イシスは、亡き夫との間にホルスを身ごもり、デルタの葦の沼に隠して育てた。長じたホルスは、父の座を奪った叔父セトに王位を問う。九柱の神々エネアドが合議し、両者はいくたびもの競い合いに臨む——ホルスは若く非力ながら知恵に長け、セトは力強いが思慮に乏しいと描かれる。その争いのさなか、セトはホルスの目を損ない、ホルスもまたセトを傷つけるが、やがて損なわれた目は癒やされ、神々はついにホルスを正統の王と認めた。
この顛末は第20王朝の写本『ホルスとセトの争い』(パピルス・チェスター・ビーティーI)に生き生きと伝わり、その原型は古王国期のピラミッド・テキストにすでに芽生えている。争いの内容も、神々の判定も、テキストごとに揺れ動く。単一の正典に収まらぬ異伝の広がりが、この神話の厚みをなしている。
図像と象徴
ホルスは隼、あるいは隼の頭をもつ人として表され、しばしば上下エジプトを統べる二重冠(プスケント)を戴く。損なわれ、癒やされたその目はウジャトと呼ばれ、無事・健全を意味する守護の護符として、あまねく用いられた。ウジャトはしばしば月に擬えられ、欠けては満ちる月の相に、ホルスの目の毀損と回復が重ねられた。その各部はまた、穀物量をはかる分数の記号にも転用された。翼を広げた日輪(ベフデトのホルス)は神殿の門口に刻まれ、王を守る天空の主を示した。本サイトが掲げるのは、隼頭のホルスを現代の線画に写した一葉である。
系譜と関係
ホルスはオシリスとイシスの子であり、宿敵セトはその叔父にあたる。ただし「ホルス」は一柱の神ではなく、複数の神格を束ねる総称でもある。オシリスの兄弟でヘリオポリスのエネアドに列なる長老ホルス(ハルウェリス)、イシスの子ホルス(ハルシエセ)、母の乳を吸う童子の姿のハルポクラテス、父を守護するハルエンドテスなど、地域と時代に応じた相が重ねられてきた。太陽神ラーと習合した「二つの地平線のホルスなるラー」=ラー・ホルアクティは、新王国期以降の主要な図像形式である。
文化的足跡
ギリシア人はホルスを自らのアポローンと同一視した(ヘロドトスは、エジプト語でアポローンをホルスと呼ぶと記している)。プトレマイオス朝のエドフ神殿では「ホルスの勝利」の祭儀が演じられ、その神話は石壁に刻まれて今日に残る。ホルスの目は現代でも護符やデザインの意匠として親しまれ、ゲームやアニメにもたびたび登場する。
領分・別名
親・配偶者・子までを表示(全体はフル系図ページへ)。実線=主要伝承/点線=異伝・別系統。