ポイベー
ポイベ · ポイベー · Phoibe
ウーラノスとガイアの娘であるティーターンの女神。名は「輝ける女」。デルポイの神託所を受け継ぎ、孫のアポローンに譲ったと伝えられる。
解説
概要
ポイベー(Φοίβη / Phoebe)は、ウーラノスとガイアの娘で、ティーターン神族の一柱である。名は「輝ける」「清らかな」を意味する形容詞ポイボスの女性形で、ヘーシオドス『神統記』はこの女神を「黄金の冠を戴く」と形容する。兄コイオスを夫とし、レートーとアステリアーの二女をもうけた。アポローン・アルテミス・ヘカテーの祖母にあたる。
神話・物語
この女神をめぐる最も重要な伝えは、アイスキュロス『エウメニデス』の冒頭にある。デルポイの巫女が語るところによれば、神託所はまず大地の女神ガイアのものであり、次いでテミスへ、そしてポイベーへと受け継がれ、ポイベーがこれを孫アポローンに誕生の贈り物として与えた。アポローンの添え名ポイボスは、この祖母の名を引き継いだものだという説明が、ここに含まれている。
ただしこの継承譚は、そのまま史実の反映と読むことはできない。D・S・ロバートソンは、三代の神々に対応する三度の神託所の授与——ウーラノスが妻ガイアに、クロノスが妹テミスに、そしてゼウスが……という構図を考えたとき、ゼウスの番でまだ生まれていないアポローンへ直接与えるわけにいかず、そこでポイベーが差し挟まれたのではないかと論じた。アイスキュロスの創案という見立てである。デルポイの聖域の前オリュンポス期の歴史について、現在の再構成はこの継承の物語をそのまま採らない。伝承が劇作家の構想によって形を与えられることの、格好の例といえる。
月の女神としての性格は、しばしば誤解される点である。ポイベー/ポイボスの名は、ローマの詩人たちによってルーナとソール、ディアーナとアポローンの言い換えとして用いられ、後期古代の文法家セルウィウスは「ポイベーはルーナであり、ポイボスはソールである」と書いた。日本語の資料が「光明神」「月の女神」と記すのはこの用法に由来する。だが古代の宗教においてポイベー自身が月の女神として崇拝された形跡はなく、月の役はもっぱら孫娘アルテミスをはじめとする他の女神が担った。名だけが継承されたのである。
図像と象徴
固有の図像を持たない神格だが、例外がある。ペルガモンの大祭壇の巨人戦争浮彫の南東の隅に、獣の特徴を備えた巨人と戦うポイベーが現れる。冠を戴き、深い襞の衣をまとい、燃える松明を振るう姿で、傍らでは娘アステリアーが、近くでは娘レートーが同じように戦っている。母娘三代が一角にまとめて配されているのは、ヘレニズムの彫刻家がヘーシオドスの系譜を読み込んで構成した結果であり、本項の主画像もこの一体である。ペルガモンのフリーズは像の下に神名の銘を刻んでおり、同定の確かさという点でも貴重な作例にあたる。
松明は、光を名とするこの女神にふさわしい持物であるが、それが古い伝統に基づくのか、彫刻家が名から導いたのかは分からない。
系譜と関係
父ウーラノス、母ガイア。同胞はオーケアノス、コイオス、クレイオス、ヒュペリーオーン、イーアペトス、クロノス、テイアー、レアー、テミス、ムネーモシュネー、テーテュース。夫コイオス、娘レートーとアステリアー。孫にアポローン、アルテミス、ヘカテー。なお、ヘーリオスの娘ヘーリアデスの一人、レーダーの娘、レウキッポスの娘にも同名の人物がおり、混同されやすい。
文化的足跡
土星の衛星フェーベにその名が与えられている。この衛星は他の主要衛星と逆向きに公転する不規則衛星で、捕獲された天体と考えられている。ティーターンの名を土星の衛星に与える体系のなかで、外れ者にこの女神の名が当てられたことになる。
領分・別名
親・配偶者・子までを表示(全体はフル系図ページへ)。実線=主要伝承/点線=異伝・別系統。