シヴァ
シヴァ神 · マハーデーヴァ · ルドラ
ヒンドゥー教の主要神格。破壊者として紹介されることが多いが、伝承のなかでは苦行者・舞踏者・恩寵の与え手でもあり、シヴァ派では最高神として崇拝される。額の第三の眼と首に巻く蛇で表される。
解説
概要
シヴァ(शिव / Śiva)は、ヒンドゥー教でもっとも広く崇拝される神格の一柱である。ヴィシュヌ、および女神(デーヴィー)と並ぶ信仰の中心をなし、シヴァ派(シャイヴァ)ではあらゆる神格を超える最高神とされる。
名は「吉祥な」を意味する形容詞であり、もとはヴェーダの荒ぶる神ルドラを宥めて呼びかける語であったと考えられている。「破壊の神」として紹介されることが多いが、これはトリムールティの図式に引きつけた理解であって、伝承のなかのシヴァはもっと大きい。シヴァ派の教学は、この神が創造・維持・破壊・秘匿・恩寵の五つの働きをすべて担うとする。破壊はそのうちの一つにすぎない。
神話・物語
『リグ・ヴェーダ』にシヴァの名の神はいない。そこにいるのは暴風雨と病をもたらし、同時に薬草を授けるルドラである。両者を結ぶ環はヤジュル・ヴェーダの祈祷「シャタルドリーヤ」にあり、ここでルドラは幾度も「シヴァ(吉祥な)」と呼びかけられる。荒ぶる神を宥める婉曲語が、やがて神の名そのものになった。
主要な物語の多くはプラーナ文献に拠る。乳海攪拌の際に生じた猛毒ハーラーハラを、世界を救うために飲み干し、喉に留めて青く染めた(ニーラカンタ=青い喉)。妻サティーは、父ダクシャが夫を供犠に招かなかった屈辱に耐えかねて命を絶ち、シヴァは供犠を破壊してその亡骸を抱えて彷徨う。苦行に沈むシヴァを妻帯させようとして愛の神カーマが花の矢を放ち、第三の眼に焼かれて姿を失った。天から降るガンガーの奔流は、大地が砕けぬよう結い上げた髪で受け止められた。
リンガの起源譚は、この神の性格をよく示している。ブラフマーとヴィシュヌが互いの優越を争っていると、果てのない光の柱が現れる。ヴィシュヌは猪となって地を掘り、ブラフマーは鵞鳥となって天へ昇るが、どちらも端に届かない。二神が敗北を認めたとき、柱はシヴァの姿を現す。始まりも終わりも見えないことが、この神の徴なのである。
物語は資料ごとに割れる。ダクシャの供犠は『マハーバーラタ』にも『バーガヴァタ・プラーナ』にも『シヴァ・プラーナ』にもあるが、シヴァ自身が乗り込むのか、その怒りから生じたヴィーラバドラが破壊するのかは伝えによる。破壊されたダクシャがのちに山羊の頭で蘇生する話も、ある伝えにはあり、ある伝えにはない。
図像と象徴
標識は多く、しかもそれぞれが物語を背負っている。額に第三の眼——カーマを焼いた眼であり、この神が見るのは表層ではない。結い上げた苦行者の髪(ジャター)には三日月と、そこに受け止められたガンガーの流れが差し込まれる。首には蛇。身には火葬場の灰(ヴィブーティ)を塗り、虎の皮を纏い、ルドラークシャの実の数珠を掛ける。持物は三叉戟(トリシューラ)と砂時計形の太鼓(ダマル)、鹿、斧。乗物(ヴァーハナ)は牡牛ナンディンで、寺院では至聖所を向いて伏している。
形象は複数あり、それぞれ別の思想を造形にしている。
ナタラージャ——舞踏の王。チョーラ朝(10〜11世紀)南インドの青銅像で完成した形で、本記事の主画像もその一例である。火焔の輪の内で片脚を上げ、上段の右手の太鼓が世界を生む音を、上段の左手の火が終わりを表す。下段の右手は「恐れるな」の印を結び、踏みしめた右足の下には無明を擬人化した小人が這う。生成と消滅と救済が一つの姿勢に畳み込まれている。
アルダナーリーシュヴァラ——右半身が男性、左半身が女性。乳房と腰の曲線が中軸で断ち切られ、対立するものが一体であることを、造形そのもので言う。
マヘーシャムールティ——エレファンタ島石窟(6世紀)の三面の巨像。穏やかな相、憤怒の相、瞑想する正面を並べる。三神一体(トリムールティ)の像と説明されることがあるが、シヴァの三相と解するのが通説である。
そしてリンガ。至聖所に据えられるのは人体形の像ではなく、この円柱形の標識であることが多い。アーンドラのグディマッラム出土例は現存最古級で、年代は前3世紀から後2世紀のあいだで諸説が分かれる。円柱の表面にはシヴァの立像が浮き彫りにされており、抽象的な標識と人体形の像が一つの石に同居している。
系譜と関係
配偶神はパールヴァティー。ダクシャの娘サティーが再生した姿とされる。子はガネーシャとスカンダ(カールッティケーヤ)。ただしヒンドゥーの家系は「生む」に還元できない。ガネーシャはパールヴァティーが自らの体の垢から造ったと『シヴァ・プラーナ』は語り、スカンダの誕生は火神アグニとガンガーと六人の女神を経由する込み入った経路をとる。系図を一本に均すと、この語り口そのものが落ちる。
体系のなかでの位置は、どのプラーナを読むかで変わる。シヴァ派の文献ではシヴァが最高であり、ヴィシュヌもブラフマーもその下に置かれる。ヴィシュヌ派の文献では逆になる。トリムールティの三柱を対等な分業と読むと、この争いが見えなくなる。
他体系との接触は仏教を介して起こった。シヴァは仏教に大自在天(マヘーシュヴァラ)として取り込まれ、その一形態マハーカーラが東アジアへ渡って日本の大黒天となる。福々しい米俵の上の神が、火葬場の灰をまとう神を前身とすることは、習合という現象の振幅を示す好例である。
文化的足跡
造形の頂点はチョーラ朝の青銅像にある。祭礼で担ぎ出すために造られたこれらの像は、寺院の外へ出ることを前提とした彫刻であり、その軽やかさは用途と無縁ではない。エレファンタ、エローラの岩を刳り抜いたカイラーサナータ寺院、アンコール期のカンボジアやジャワへも図像は及んだ。
近代以降、ナタラージャ像はインド美術を代表する像として世界に流通し、ジュネーヴのCERNには2004年にインド政府から贈られた像が立っている。日本ではゲームや漫画を通じて名を知る読者も多いが、作品ごとの造形は原典の伝承とは別のものである。
領分・別名
親・配偶者・子までを表示(全体はフル系図ページへ)。実線=主要伝承/点線=異伝・別系統。