ヴィーラバドラ
ヴィーラバドラスワーミー · バドラカーリーの伴 · リンガーヤト派の守護神
シヴァの憤怒から生じた恐るべき眷属。サティーの焼身を知った主が髪を投げて現じ、ダクシャの祭場を破壊した巨人。
解説
概要
ヴィーラバドラ(Vīrabhadra / वीरभद्र)は、シヴァの憤怒から生じた恐るべき眷属である。妻サティーが父ダクシャの祭場で身を焼いたことを知ったシヴァが、結い髪の一房を引き抜いて地に投げると、そこから現れたとされる。祭場を破壊し、ダクシャの首を刎ねた。カルナータカとアーンドラでは独立した信仰の対象となっており、リンガーヤト派の守護神としても祀られる。
神話・物語
『シヴァ・プラーナ』などが伝える。ダクシャは祭祀を営むにあたり、娘の夫であるシヴァだけを招かなかった。父の非を難じるためひとり赴いたサティーは、夫が侮辱されるのを聞いて祭火に身を投じる。
報せを受けたシヴァは激しく怒り、頭の結い髪から一房を引き抜いて地に叩きつけた。そこから千の腕と三つの眼をもち、火焔の色をした巨人が現れる。同時に女神の側からもバドラカーリーが生じ、二者は眷属の群れを率いて祭場へ向かった。
祭場は蹂躙された。ヴィーラバドラはダクシャの首を刎ね、居並ぶ神々にも罰を下す。祭を笑って見ていたバガは眼を、供物を分けたプーシャンは歯を、シヴァを嘲ったブリグは髭を失ったと語られる。
のちにブラフマーらの取りなしによってシヴァは怒りを収め、ダクシャは山羊の首を据えられて蘇生した。祭祀の場から締め出された神が、その祭祀を破壊することによって体系のなかへ位置を得るという構図をもつ。
図像と象徴
多臂で、剣、弓、盾、髑髏を執る。逆立つ髪、牙、髑髏を連ねた花環、そして足下に踏みしだかれた祭場の残骸が定型である。エローラやエレファンタの石窟には、祭場を襲う群像が刻まれ、その一隅に山羊の頭を据えられたダクシャが配される。
象徴となるのは引き抜かれた一房の髪である。神が自らの身体の一部を投げるだけで、これほどの破壊者が生じるという構図が、憤怒の相の力を示す。
系譜と関係
シヴァの怒りから生じた者であり、通常の系譜をもたない。伴として現れるバドラカーリーは、女神の側から生じた同型の存在である。眷属の長ガネーシャ、乗騎ナンディンらとともにシヴァの周囲を構成する。
文化的足跡
カルナータカ、アーンドラ・プラデーシュ、テランガーナには彼を主神とする寺院が数多くあり、氏族の守護神として祀る集団もある。アーンドラのレーパークシー寺院は16世紀の作例を伝える主要な聖地で、境内の巨大な牡牛像でも知られる。
リンガーヤト派においては、シヴァの直接の顕現として重んじられる。祭では剣舞や火渡りが伴うことがあり、憤怒の相を身に受ける実践として行われてきた。
七母神(サプタマートリカー)の浮彫において、両端の一方に彼が、他方にガネーシャが置かれて母神たちを挟む構成をとることが多い。破壊者と障害を除く者が、女神群の左右を守るという配置である。