カーリー
マハーカーリー · チャームンダー · カリ
ヒンドゥー教の女神。名は「時」を意味し、時のもたらす死と破壊、そして再生を体現する。恐ろしい姿の陰に母性を宿し、シヴァの活動する力(シャクティ)とされる。
解説
概要
カーリー(काली / Kālī)は、ヒンドゥー教の女神である。その名は「時」を意味する男性名詞カーラ(kāla)の女性形であり、時間と、時のもたらす死・破壊・再生を体現する。峻烈な姿で描かれながら、信者にとっては母なる女神であり、大女神デーヴィーの猛き一面、シヴァのシャクティ(活動する力)として位置づけられる。
神話・物語
カーリーがまとまった物語に現れる最初の重要な典拠は、5〜6世紀頃に成立したデーヴィー・マーハートミヤ(『マールカンデーヤ・プラーナ』の一部)である。戦女神ドゥルガーが魔神チャンダとムンダを討つとき、その眉間の怒りからカーリーが躍り出た——この功で彼女はチャームンダーの名を得たと伝える。とりわけ名高いのが魔神ラクタビージャ(「血の種」)との戦いである。地に落ちたその血の一滴ごとに分身が生じるため、カーリーは長い舌を戦場に広げ、血が地に触れる前に呑み尽くして、際限ない増殖を絶った。
勝利ののちもカーリーの狂乱は収まらず、その舞は世界を滅ぼしかねないほどであった。これを鎮めるために夫シヴァがみずから足下に横たわり、彼を踏んで我に返った女神は舌を突き出す——この舌を、我を忘れた恥じらいの表れとする伝えもあれば、戦場の渇きの名残とする解釈もある。異伝も豊かで、『リンガ・プラーナ』では毒を身に受けたパールヴァティーが黒き戦士カーリーと化して魔神ダールカを討つ。単一の正伝に収まらない、層をなす物語がこの女神を形づくっている。
図像と象徴
カーリーの図像は際立って激しい。漆黒あるいは濃紺の肌、乱れ解けた髪、突き出した舌。四本の腕は、ダクシナ・カーリーの定型では、左上に剣(無明を断つ知の剣)、左下に斬られた首(滅ぼされた我執)を執り、右上は施無畏の印(アバヤ・ムドラー)、右下は与願の印(ヴァラダ・ムドラー)を結ぶ。頸には斬首の花輪ムンダマーラー——およそ五十の首はサンスクリット字母に擬えられる——を掛け、腰には斬られた腕の帯を巻いて、横たわるシヴァの胸を踏む。右足を胸に置く姿はダクシナ・カーリー(穏やかな相)、左足を置く姿はヴァーマ・カーリー(火葬場で祀られる猛き相)と呼び分けられる。本サイトが掲げるラージャ・ラヴィ・ヴァルマの画は、近代インド絵画がこの図像を油彩に写した一例である。
系譜と関係
カーリーはシヴァを伴侶とし、両者はしばしば「シヴァとシャクティ」——静かな意識と、それを動かす力——の一対として説かれる。力なきシヴァは屍(シャヴァ)にひとしい、という語呂合わせは、この関係を鮮やかに言い表す。カーリーはまた、戦女神ドゥルガーの最も激しい相であり、山の娘パールヴァティーの憤怒の顕現でもあって、これらはいずれも唯一の大女神マハーデーヴィーの諸相とされる。タントラの伝統では、十人の大知識女神ダシャ・マハーヴィディヤーの筆頭に数えられる。この十柱は、最も恐ろしい彼女から最も穏やかなカマラーまで、女神の働きの全体を一組に収める体系であり、美を担うトリプラ・スンダリーとは対をなす二柱として並び称される。
文化的足跡
カーリー信仰はとりわけベンガルやアッサムで篤く、コールカタのカーリーガート、カーマークヤーの聖地、近代の聖者ラーマクリシュナの信仰でも知られる。西洋には19世紀以降しばしば「恐ろしい女神」として紹介されたが、ヒンドゥー神話の内側では、死と再生を統べる母神として今日も広く崇拝されている。現代のゲームやアニメにも、幻想的な姿でたびたび登場する。
領分・別名
親・配偶者・子までを表示(全体はフル系図ページへ)。実線=主要伝承/点線=異伝・別系統。