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ヘーラー
PLATE — ἭΡΑ
HELLAS · ギリシア神話
ἭΡΑ

ヘーラー

ヘラ · ヘーレー · ユーノー(ローマ)

Marie-Lan Nguyen PUBLIC DOMAIN

ギリシア神話の女神。ゼウスの正妻にして神々の女王であり、結婚と出産を守護する。夫の情事への執拗な報復で知られるが、その信仰はギリシア最古の神殿にまで遡る。

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解説

概要

ヘーラー(Ἥρα / Hera)は、結婚と女性と出産を司るギリシアの女神である。クロノスとレアーの娘、ゼウスの姉にして正妻であり、オリュンポスの女王とされた。

文学のヘーラーと、祭祀のヘーラーは、ほとんど別人である。ホメーロス以来の詩人が描くのは、夫の情事を嗅ぎつけては相手と子に報復する妻であり、その執念が物語を動かす。一方、実際の信仰においては、サモスとアルゴスに、ギリシア世界で最も古く最も大きな部類の神殿をもつ女神だった。ブルケルトは、この巨大な女神に比べれば神話の口やかましいヘーラーは「ほとんど喜劇的な人物」だと述べている。

名の語源は分かっていない。線文字B文書に e-ra の形で現れ、ゼウスと並んで供物を受けている。「英雄」(hērōs)と結ぶ説、「若い牝牛」と読む説、印欧祖語で「結び合わされた女」と解く説などがあるが、いずれも決め手を欠く。ベーケスはギリシア語以前の語と見る。

神話・物語

ヘーシオドス『神統記』では、ヘーラーはゼウスの最後の妻である。メーティステミス、エウリュノメー、デーメーテール、ムネーモシュネー、レートーと結ばれたのち、正妻として迎えられた。順序は資料で揺れる。ピンダロスの断片はテミスを最初の妻とし、ドードーナの神託所ではディオーネーが配偶神とされた。

求婚の伝えも一つでない。『イーリアス』第14歌は、二柱が親の目を盗んで結ばれたと語る。パウサニアースが伝えるアルゴスの地方伝承では、ゼウスは嵐に打たれた郭公に化けてヘーラーの膝に飛び込み、憐れんだ女神が懐に抱いたところで正体を現したという。アルゴスのヘーラー像が笏の先に郭公を戴くのは、この話に基づく。婚姻を再演するヒエロス・ガモスの祭は各地で行われ、サモスとクノーソスに古い形が残った。

報復の物語は数が多い。イーオーは牝牛に変えられ、百目のアルゴスに見張られ、逃げれば虻に追われてエジプトまで彷徨う。セメレーは乳母の姿で近づいた女神に唆され、神の本体を見せてくれと願って焼け死ぬ。レートーは出産の地を拒まれた。ヘーラクレースには生涯にわたって敵対する。その名が「ヘーラーの栄光」を意味することは古代から意識されており、ヘーラクレースの十二功業そのものが、女神の送り込んだ狂気の贖いとして課されたものである。

これらは長く「嫉妬」の物語として読まれてきた。だが標的を並べてみると、いずれもゼウスが婚姻の外に作った関係と、その産物である。婚姻の守護者が、破る側ではなく、破られた結果のほうを消しにかかる。祭祀のヘーラーと文学のヘーラーは、この一点で繋がっている。

女神自身も罰を受ける。『イーリアス』第15歌によれば、ヘーラクレースを害したことに怒ったゼウスは、彼女の両手を金の枷で縛り、両足に金床を吊るして天と地のあいだに吊した。

図像と象徴

聖獣は牝牛。ホメーロスの決まり文句は「牝牛の目をした(ボオーピス)女王ヘーラー」であり、この形容は線文字B文書にも qo-wi-ja の形で見える。目が大きく穏やかだから、というだけの説明では足りない。古い層のヘーラーが牝牛の姿で思い描かれた可能性を、ブルケルトは慎重に示唆している。イーオーが牝牛にされる話も、もとは女神自身の一相だったのではないかという議論がある。

ほかに郭公、不死の徴として手にする柘榴、そして孔雀。ただし孔雀はヘレニズム期以降の追加である。インド原産であり、古典期のギリシアには入っていない。アルゴスの目を尾羽に移したというオウィディウス『変身物語』の説明は、鳥が先に女神に付いてから作られた由来譚である。

造形は、正装して直立するか玉座に座る既婚女性の型に定まる。冠(ポロス)または額冠を戴き、しばしばヴェールを被る。ヴェールは既婚女性の徴であり、この女神を娘の神々から分ける最も確実な標識である。ゼウスが上体を露わにするのに対し、ヘーラーは常に衣を着けている。だがアテーナーが兜と楯で識別されるのと違い、ヘーラーを識別するのは衣装と姿勢だけで、持物に乏しい。同定の定まらない女性像が多いのはそのためである。

彫像より雄弁なのは建築のほうである。サモスのヘーラーイオンは、ギリシア人が神域に屋根つきの神殿を建てた最初の例とされる(前800年頃)。ポリュクラテースが前540〜530年頃に着工した神殿は155本の柱の森であり、完成したかどうかも定かでない。オリュンピアで最も古い神殿もヘーラーのものである。この女神は、物語より先に、建築で自分を主張していた。

系譜と関係

父はクロノス、母はレアー。姉妹はヘスティアー、デーメーテール。兄弟はハーデース、ポセイドーン、そして夫となるゼウス。姉が弟の妻になるという構図は、王朝の内婚を映すというより、二柱が別々の起源をもつ神で、あとから夫婦に組まれた結果と見るのが通説である。

ゼウスとの子はアレース、ヘーベー、そして出産の女神エイレイテュイア。ヘーパイストスについては伝えが割れる。ホメーロスは両親の子とするが、『神統記』は、ゼウスが一人でアテーナーを生んだことへの報復として、ヘーラーが単独で産んだとする。

パリスの審判ではアテーナー・アプロディーテーと美を競い、敗れてトロイアの破滅まで敵に回る。ローマではユーノーと同一視されたが(インテルプレタティオ・ロマーナ)、ユーノーには暦の朔日、貨幣鋳造、武装した守護者という、ヘーラーにない相がある。

文化的足跡

この女神の名は、ヘーラクレース、ヘーロドトス、ヘーラクレイトスといった人名に残る。これほど多くの人間が名に負う女神が、神話では終始「怒っている妻」として語られる。

近世以降の絵画は、ヘーラー(ユーノー)を単独ではほとんど描かなかった。ルーベンス《天の川の起源》のようにヘーラクレースへの授乳と天の川の由来を描くか、パリスの審判の三人の一人として描くか、イーオーの物語の脇に置くかである。主役として描かれない女王という位置は、古代の文学が作った像をそのまま引き継いでいる。現代のゲームや漫画でも、ヘーラーはたいてい「ゼウスの妻」として現れる。サモスに立っていた155本の柱のほうが、この女神の実像に近い。

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領分・別名

INTERPRETATIO — 同一視・同源
ユーノー ローマ神話 同一視
interpretatio romana。ユーノーには暦の朔日(カレンダエ)、貨幣鋳造(モネータ)、山羊皮をまとう武装(ソースピタ)、女性各人に宿るユーノーネースという、ヘーラーに無い相がある。語源も *Diovona 説より iuven- 説が通説で、ヘーラーとは同源でない。エトルリアのウニを経由する
サテト エジプト神話 同一視
インテルプレタティオ・グラエカ。ギリシア人はヘラ、ローマ人はユノーに当てた。機能ではなく神々のなかでの地位による同定
ウニ エトルリア神話 同一視
最高神の妻という位置と、ヘルクレへの授乳譚の共有による。ただしエトルリアの図では成人したヘルクレに進んで乳を与える形に変わっており、単なる移入ではない。

親・配偶者・子までを表示(全体はフル系図ページへ)。実線=主要伝承点線=異伝・別系統

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資料

Wikidata
Q38012 — 骨格データの出典
Commons
Hera — 図像カテゴリ