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ハーデース
PLATE — ἍΙΔΗΣ
HELLAS · ギリシア神話
ἍΙΔΗΣ

ハーデース

ハデス · ハーイデース · プルートーン

Marie-Lan Nguyen (2007) CC BY 2.5

ギリシア神話の冥界の王。クロノスとレアーの子で、ゼウス・ポセイドーンの兄弟。世界を三分するくじ引きで地下を引き当てた。恐れられ、その名を口にすることさえ避けられた神である。

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解説

概要

ハーデース(ᾍδης / Hāidēs)は、クロノスとレアーの子、ゼウスとポセイドーンの兄弟であり、冥界の王である。父に呑み込まれ、末子ゼウスに助け出されてティーターノマキアーを戦い、被れば姿の消える隠れ兜でクロノスに迫った。勝利ののち三兄弟はくじ引きで領分を分け、彼は地下を引き当てる。分割されたのは天と海と冥界であって、大地とオリュンポスは共有とされた。

死者の国の主でありながら、死そのものではない。死の擬人神はニュクスの子タナトスであり、ハーデースが司るのは死後の世界の秩序である。そこへ降りた者は戻らない。この一点において、彼は他のどの神よりも動かない。

その名は場所の名でもあり、ギリシア人にとって「ハーデース」は冥界そのものを指した。名を口にするのを避けたため、婉曲表現がそのまま異名として定着する。プルートーン(富める者)、クリュメノス(名高き者)、エウブーレウス(よき忠告者)、アイドーネウス(見えざる者)。オリュンポス十二神に数えないのが通例なのは、彼が地上に来ないからである。

神話・物語

物語は少ない。まとまった神話はほとんど一つ、ペルセポネー略奪だけである。

ホメーロス風讃歌』のデーメーテール讃歌によれば、ニューサの野で水仙を摘んでいたコレー(ペルセポネー)の足元で大地が裂け、ハーデースが黄金の車で現れて娘を連れ去った。父ゼウスは、母デーメーテールに諮らないままこの結婚を許していた。娘を探してさまようデーメーテールは豊穣の力を引き上げ、大地は実らなくなる。ゼウスはついに返還を命じるが、ペルセポネーは冥界でザクロの実を口にしていた。冥界の食物を食べた者はそこに属する。

戻る条件は資料によって割れる。讃歌は一年の三分の一を冥界で過ごすとし、オウィディウスは半年とする。ザクロの粒も四粒・三粒・六粒と伝えが分かれる。この神話は季節の由来譚として読まれ、エレウシースの秘儀の中核に置かれた。

オルペウスは竪琴の音で冥界のすべてを立ち止まらせ、涙したペルセポネーの取りなしで妻エウリュディケーの返還を勝ち取る。ただし「地上に出るまで振り返るな」の条件つきで、彼はそれを守れなかった。ヘーラクレースには「傷つけず殺さぬ」ことを条件にケルベロスの連れ出しを許し、アポローンの子アスクレーピオスが死者を蘇らせたときには、ゼウスに訴え出て雷霆を落とさせている。冥界の王は交渉には応じるが、規則は曲げない。

図像と象徴

古代の美術にハーデースはめったに現れない。名を避ける態度がそのまま図像の希薄さになり、他の神のような定型が育たなかった。陶器画に見える冥界の壮年男性を彼と読むのが通例だが、確定的な標識に乏しい。

数少ない表現では、黒い髭をたくわえ、黒檀の玉座に就く。持物は笏と鍵。冥界の門は常に閉ざされ、入ることはできても出られないことを鍵が示す。傍らにはケルベロス。水仙(ペルセポネーを誘い出した花)と糸杉が付属し、犠牲には黒い獣が捧げられた。祈る者は地面を手で叩いて呼びかけ、供犠の血は地の裂け目に注ぎ、顔を背けた。天上の神々への祭祀とは作法そのものが逆である。他の神から顔をそむけた姿で描かれることもある。

もう一つの相がプルートーンである。地下の鉱脈も、地中から芽を出す穀物も、同じ大地から来る。この面が前に出るとき、彼は豊穣の角(コルヌーコピア)を手にし、恐怖の対象ではなく富の授与者として描かれる。図像の同定が難しいのはこのためで、豊穣の角をもつ髭の神がハーデースなのか富の神プルートスなのかは、しばしば議論になる。二又の矛(バイデント)は古代よりも後世の美術で定着した持物である。

系譜と関係

父クロノス、母レアー。兄弟姉妹はヘスティアー、デーメーテール、ヘーラー、ポセイドーン、ゼウス。妻ペルセポネーはゼウスとデーメーテールの娘、すなわち姪にあたる。二神に子はないとするのが通例で、死者を司る神が生を生まないことの現れと解される。ただしザグレウスやマカリアーをその子とする伝えもある。

ローマではプルートーの名で受け入れられ、在来の冥界神ディース・パテル、オルクス、フェブルウスと重なった。ヘレニズム期のエジプトでは、ギリシア人とエジプト人の双方に通じる神としてセラピスが造られ、その図像の原型の一つがハーデース=プルートーンである。

魂を冥界へ導く役はハーデースではなく、ヘルメースの職掌である(プシュコポンポス)。死者を裁くのもミーノースラダマンテュスアイアコスの三判官であって、彼ではない。日本語圏に定着した「冥王」の訳のとおり、ハーデースは王であり、死神でも審判者でもない。

文化的足跡

ハーデースを祀る神殿はほとんど建てられなかった。パウサニアースはエーリスの一例を挙げ、その扉は年に一度しか開かれず、入れるのは神官だけだったと記す。この神は敬われたのではなく、避けられた。

ダンテ『神曲』の地獄はギリシアの冥界像を下敷きにし、渡し守カローンもケルベロスもそのまま登場する。ベルニーニ《プロセルピナの略奪》は、大理石の腿に食い込む指で略奪の一瞬を刻んだ。1930年に見つかった太陽系外縁の天体にプルートーの名が採られたのも、光の届かない辺境にふさわしいと考えられたからである。現代の創作では冥界の王を悪役に配することが多いが、原典のハーデースは規則に忠実な神であって、悪神ではない。

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領分・別名

INTERPRETATIO — 同一視・同源
プルートー ローマ神話 同一視
interpretatio romana。ローマはハーデースの婉曲名プルートーン(富める者)の方を神名として受容した。ローマ固有の祭祀をもつため別エンティティとして扱う
セラピス エジプト神話 同一視
冥界の主としての図像(モディウス・王笏・ケルベロス)はハデス/プルートーから借りられた。インテルプレタティオ・グラエカ
アイタ エトルリア神話 同一視
エトルリア語 aita はギリシア語 Aïdes(ハーデース)からの借用。図像・碑文ともに前4世紀から現れ、妃の名ペルシプナイもペルセポネーに対応する。ただし狼の頭巾など土着のカルから受け継いだ要素が残る。
ディス・パテル ローマ神話 同一視
ローマ在来の冥界神。キケロ『神々の本性について』II 66 はディース・パテルをプルートーと等置し、名(豊かなる父)もプルートーンの直訳にあたる。未収載のため QID で保持

親・配偶者・子までを表示(全体はフル系図ページへ)。実線=主要伝承点線=異伝・別系統

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資料

Wikidata
Q41410 — 骨格データの出典
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