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ヘーベー
PLATE — HEBE
HELLAS · ギリシア神話
HEBE

ヘーベー

Hebe

Mak Thorpe (1999) CC BY-SA 2.5

ギリシア神話の青春の女神。オリュンポスの宴で神々にネクタルを注ぐ給仕役を務め、のちに英雄ヘーラクレースの妻となった。人を若返らせる力をもつ。

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解説

概要

ヘーベー(Ἥβη / Hebe)は、ギリシア神話で青春を司る女神である。名は「若さ」「盛りの年ごろ」を意味する普通名詞そのもので、抽象概念が神のかたちをとった擬人化の典型例にあたる。ゼウスヘーラーの娘であり、オリュンポスの宴では神々にネクタルアムブロシアーを給する役を務めた。後代の著述家ピロストラトスは、神々が老いないのはこの女神の働きによるのだと述べている。給仕という一見つつましい役目が、不死の維持という機能に直結しているところに、この神格の骨格がある。

神話・物語

ヘーシオドス『神統記』は、ヘーベーをアレースエイレイテュイアとならぶゼウスとヘーラーの子とする。ピンダロスは諸女神のうちで最も美しく、天上で永く母のかたわらにあると歌った。これに対し、近代の研究者がオルペウス教系の断片から組み立てた再構成では、ヘーラーが夫によらず身ごもった話として語られる。ただしこれは断片からの推定的な復元であって、古代の聴き手が知っていた形とは限らない点に注意を要する。

給仕役をめぐっては伝承が割れる。ホメーロス『イーリアス』ではヘーベーが神々に酌をし、トロイアの王子ガニュメーデースはゼウス個人の酌人として現れるので、両者は必ずしも交代の関係にない。一方、後代の説明ではヘーベーの結婚を機に役目が移ったとされ、さらに別の筋は、宴の席で失態を犯してゼウスの怒りを買ったためだとする。この「失態」を、転倒して衣がはだけ裸身をさらしたという具体的な話に仕立てたのは16世紀イングランドの英羅辞典の注記であり、古代の文献にも図像にも対応するものがない。近世に女性の慎みを説く教訓として付け加えられたものである。

ヘーラクレースが死後に神々の列へ加えられたとき、生前この英雄を苦しめ続けたヘーラーは、最愛の娘ヘーベーを妻として与えた。婚姻によって和解を公にするという、きわめて人間的な決着である。二柱のあいだにはアレクシアレースとアニーケートスという二子が生まれたが、名のほかに伝わるものはない。

若さを与え返す力は、この女神に固有のものとして語られる。エウリーピデース『ヘーラクレイダイ』とオウィディウス『変身物語』は、ヘーラクレースの従者イオラーオスエウリュステウスを討つために若返りを願い、ヘーベーがこれを聞き入れたと伝える。アポロドーロスは、カリロエーの幼い子らを一夜で成人させたのもこの女神だとする。子を育てる時間そのものを操作できる神は、ギリシアの神話でもきわめて数が少ない。

図像と象徴

古典期の作例では、袖のない衣をまとった若い娘として、酒杯と水差しを手に表される。鷲の姿をとった父に杯を差し出す構図が定型となり、この組み合わせが後世まで受け継がれた。

やっかいなのは、ヘーベーが翼をもつ姿でも描かれることである。そのため翼のある若い女性像は、ヘーベーかイーリスニーケーか判別がつきにくい。パルテノン東側の一体をヘーベーと見るかどうかは、いまも意見が分かれている。確実な例として挙げられるのは、ソシアスの杯で頭上に「Η」の銘が添えられた一体である。前580年から前570年頃のソフィロス作ディノス(大英博物館)では、ペーレウスとテティスの婚礼へ向かう神々の行列のなかで、外套を肩に掛けない姿で単独に置かれ、参列者のうちでもとりわけ目立つ扱いを受けている。

祭祀の場では、逆に像を持たないことが特徴だった。パウサニアースによれば、アルゴリスのフリウースにある聖所には、秘蔵の像も公開の像もなかった。彫像の民であるギリシア人が、あえて像を置かない神域を保ったことになる。

近世に入ると事情は一変し、1750年から1880年頃にかけてヘーベーは絵画と彫刻の主題として爆発的に流行した。白い衣に髪の花、そして杯という最小限の道具立てで貴婦人の肖像を「ヘーベーとして」描く形式が定着し、フランス語ではそれを en Hébé と呼んだ。アントニオ・カノーヴァはこの主題で四つの版を制作しており、本項に掲げたエルミタージュ美術館蔵の像(1800年から1805年)はその一つである。19世紀後半のアメリカでは、庭園や広場の噴水像としてヘーベーの鋳造像が各地に据えられた。杯を掲げる女神は、清らかな水を配る図柄として都市の給水施設にふさわしいと考えられたのである。

系譜と関係

父はゼウス、母はヘーラー。兄妹にアレースとエイレイテュイア。夫はヘーラクレース。アルゴスのヘーライオンでは、大きなヘーラー坐像のかたわらに象牙と黄金のヘーベー像が立っていたとパウサニアースが伝え、アルゴスの貨幣にも二体が並ぶ図が刻まれている。母の処女の相を分けたものと見る説と、デーメーテールペルセポネーのような母娘の対と見る説がある。フリウースでは、この女神はもとガニュメーダー、のちにディア(ゼウスの娘)とも呼ばれた。同地では嘆願者を赦すことが最大の栄誉とされ、放免された囚人は鎖を聖林の木に掛けて奉じた。青春の女神が赦免の女神でもあるという結びつきは、他に例を見ない。

ローマでは、インテルプレタティオ・ロマーナを通じて青年の守護神ユウェンタースと同一視された。ただしユウェンタースにはカピトーリウム丘の祭祀という独自の来歴があり、両者は重ならない。

文化的足跡

19世紀アメリカの禁酒運動は、酒ではなく水を配る像としてヘーベーを好み、公共の飲水泉の上に据えた。ケンタッキー州ボーリンググリーンやテネシー州メンフィスの泉は、いずれもカノーヴァの像を型取った鋳物である。精神医学の用語ヘベフレニー(破瓜病)も、思春期に発症する型を指してこの女神の名から作られた。

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領分・別名

INTERPRETATIO — 同一視・同源
ユウェンタース ローマ神話 同一視
インテルプレタティオ・ロマーナ。青春の女神としてローマのユウェンタースと同一視された。ただしユウェンタースは青年男子の年齢集団を守る神で、カピトーリウム丘の祭祀という独自の来歴をもつ。

親・配偶者・子までを表示(全体はフル系図ページへ)。実線=主要伝承点線=異伝・別系統

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資料

Wikidata
Q131125 — 骨格データの出典
Commons
Hebe (mythology) — 図像カテゴリ