デーメーテール
デメテル · ケレース(ローマ)
ギリシア神話の農耕と穀物の女神。娘ペルセポネーを冥界に奪われ、嘆きのあまり大地を枯らしたことが四季の循環を生んだと語られる。エレウシースの秘儀の中心をなす。
解説
概要
デーメーテール(Δημήτηρ / Demeter)はギリシア神話の豊穣の女神であり、とりわけ穀物と農耕を司る。オリュンポスの主要な女神の一柱で、ゼウスの姉にあたる。人間に穀物の栽培を授けた文明の恵み手であると同時に、娘を奪われた母の悲しみが季節の巡りを生んだとする物語によって、稔りと荒廃の循環を体現する神でもある。
神話・物語
デーメーテールをめぐる中心的な神話は、娘ペルセポネーの略奪である。最古の典拠「デーメーテール讃歌」によれば、冥王ハーデースがゼウスの黙認のもとにペルセポネーを冥界へさらった。デーメーテールは松明を掲げて世を彷徨い、悲しみのあまり地を稔らせることをやめたため、飢饉が人類を襲う。窮したゼウスは娘の返還を命じるが、ペルセポネーが冥界でザクロの実を口にしていたため、彼女は一年の一定期間を冥界で過ごさねばならなくなった。娘が地上に戻る間は大地が実り、冥界にある間は枯れる——これが季節の起源として語られる。ただしペルセポネーが冥界に留まる期間は伝承で割れており、讃歌が一年の三分の一とするのに対し、ローマのオウィディウス『祭暦』は半年とする。彷徨のさなかデーメーテールはエレウシースの王家に迎えられ、そこでエレウシースの秘儀を人々に定めたとされる。
図像と象徴
デーメーテールの図像は、豊穣を象る持物によって見分けられる。麦の穂の束、豊饒の角(コルヌコピア)、松明、そして頭上の花冠がその標である。松明は闇の冥界へ消えた娘を捜す母の探索を、麦の穂は彼女が司る恵みそのものを示す。しばしば玉座に坐す威厳ある成熟した女性として表され、娘ペルセポネーと並んで「二女神」として一対で描かれることも多い。本項の図版は、デーメーテール聖域から出土した前4世紀のクニドスのデーメーテール像で、喪失の悲しみをたたえた表情がとりわけ名高い。
系譜と関係
クロノスとレアーの娘で、ゼウス・ポセイドーン・ハーデースらの姉妹にあたる(ヘーシオドス『神統記』)。ゼウスとの間に娘ペルセポネーを、また地方の伝承ではポセイドーンとの間に神馬アレイオンや女神デスポイナをもうけたとされる(パウサニアスの伝えるアルカディアの異伝)。ローマではケレースと同一視され(インテルプレタティオ・ロマーナ)、その名は今日の「シリアル(cereal)」に残る。またヘレニズム期には、失われた者を捜し歩く母神という共通性から、エジプトのイシスとも重ね合わせて語られた。
文化的足跡
デーメーテール信仰の核心は、長きにわたって続いたエレウシースの秘儀にあった。参入者に死後の幸福を約束したこの密儀は古代世界で広く尊ばれたが、その内容は口外を禁じられ、多くが謎に包まれたままである。女性たちが営む農耕儀礼テスモポリアもまた、この女神と結びつく重要な祭であった。後世の美術では、実りの寓意「大地の恵み」としてしばしば描かれ、季節の起源を語るこの神話は文学にも繰り返し取り上げられてきた。現代でも『Fate/Grand Order』『女神転生』シリーズなどの作品に登場する。
領分・別名
図版で辿る
エレウシスの大浮彫(前440〜430年、アテネ国立考古学博物館蔵)/撮影 TIMETRAVELROME, CC BY 2.0
図版はいずれもパブリックドメインまたは CC0。所蔵館・撮影者の表記は各図版のキャプションに従う。例: The Metropolitan Museum of Art, CC0/Wikimedia Commons のライセンス表記に準拠。
親・配偶者・子までを表示(全体はフル系図ページへ)。実線=主要伝承/点線=異伝・別系統。