アルジュナ
パールタ · ダナンジャヤ · キリーティン
パーンダヴァ五兄弟の三男でインドラの子。神弓ガーンディーヴァを操る弓の達人であり、『バガヴァッド・ギーター』の聞き手でもある。
解説
概要
アルジュナ(Arjuna / अर्जुन)は『マハーバーラタ』の主人公の一人で、パーンダヴァ五兄弟の三男である。母クンティーがインドラを招いて授かった子とされ、神弓ガーンディーヴァを操る弓の達人として描かれる。長兄が知恵と家長の座を、次兄が肉弾の武を担うのに対し、彼は神々との交渉と人間的葛藤を引き受ける位置にある。クリシュナが戦場で彼に説いた教えが『バガヴァッド・ギーター』であり、この一点によって叙事詩全体の思想的な中心に立つ。聖仙ナラの化身とされ、ナーラーヤナの化身であるクリシュナと不可分の対をなす。
神話・物語
武芸の師ドローナは弟子のなかでも彼を特に愛した。木に止まる鳥を指して「何が見えるか」と問うたとき、他の弟子が木や枝を答えるなかでアルジュナだけが「鳥の目が見えます。他には何も見えません」と答えたという挿話は名高い。暗闇でも食事ができることに気づいて夜間の弓の鍛錬を始めたのも彼である。師への謝礼としてドルパダ王の捕縛を求められたとき、これを果たしたのもアルジュナであった。
パンチャーラ王ドルパダが娘の婿選びを開いたとき、誰も引けなかった強弓を引き絞って的を射抜き、ドラウパディーを得た。連れ帰って「得たものです」と告げたところ、托鉢の施物と思った母が「みなで分かちなさい」と答えてしまう。母の言葉を偽りにできぬこと、兄より先に弟が結婚すべきでないことから、彼女は五兄弟共通の妻となった。
兄弟間の取り決めを破った罰として、彼は十二年の放浪に出る。この旅でナーガの姫ウルーピーと結ばれてイラーヴァットをもうけ、チトラーンガダーとの間にバブルヴァーハナを、そしてクリシュナの妹スバドラーを略奪婚によって娶りアビマニユを得た。帰国後はアグニの求めに応じてカーンダヴァの森を焼き、その報酬としてガーンディーヴァと尽きぬ矢の箙を得ている。
追放中の三度目の放浪では、天界の武器を求めて単身苦行に入った。山岳民に扮したシヴァと戦って敗れ、その勇猛さを喜んだシヴァから最強の武器パーシュパタを授かる。続いてヴァルナ、ヤマ、クベーラ、そしてインドラが彼に武器を与えた。
そしてクルクシェートラの戦いの開戦前、両軍のあいだに戦車を進めた彼は、敵陣に祖父や師や親族の姿を認めて弓を取り落とす。御者となったクリシュナがそこで説いたのが『バガヴァッド・ギーター』である。自らの務め(ダルマ)を果たせという教えを受けて、彼は再び弓を取った。
図像と象徴
弓を執る姿で表され、戦車の御者としてクリシュナを伴う構図が最も広く行われる。旗標は猿ハヌマーン、法螺貝はデーヴァダッタ、弓はガーンディーヴァ。「アルジュナ」は「白い者」を意味し、パールタ(プリターの子)、ダナンジャヤ(富を得る者)、キリーティン(冠を戴く者)など多くの異名をもつ。マハーバリプラムに残る7世紀の巨大な岩壁彫刻は、パーシュパタを求めて片脚で苦行する彼の姿を刻んだものと解されており、「アルジュナの苦行」の名で知られる。
系譜と関係
母はクンティー、父はインドラ。兄にユディシュティラとビーマ、異母弟に双子のナクラとサハデーヴァ。妻はドラウパディー、ウルーピー、チトラーンガダー、スバドラー。子にイラーヴァット、バブルヴァーハナ、アビマニユがあり、アビマニユの子パリークシットがクル族の王統を継いだ。敵陣のカルナは、彼が知らぬまま宿敵とした同腹の兄にあたる。
文化的足跡
クリシュナとアルジュナの対話という形式は、ヒンドゥーの宗教文学に決定的な型を与えた。『バガヴァッド・ギーター』は今日に至るまで最も広く読まれるインドの聖典であり、近代以降は各国語に訳されて思想史に影響を及ぼしている。東南アジアでも受容され、ジャワの『アルジュナ・ウィワーハ』(11世紀)は苦行する彼を主題とする宮廷文学の代表作である。
領分・別名
親・配偶者・子までを表示(全体はフル系図ページへ)。実線=主要伝承/点線=異伝・別系統。