スバドラー
バドラー · ヨーガマーヤーの転生 · ジャガンナート三尊の一
クリシュナとバララーマの妹でアルジュナの妻。アビマニユの母にあたり、プリのジャガンナート信仰では三体一組の一角を占める。
解説
概要
スバドラー(Subhadrā / सुभद्रा)は『マハーバーラタ』の登場人物で、ヴリシュニ族のヴァスデーヴァとデーヴァキーの娘、クリシュナとバララーマの妹である。アルジュナの妻となり、アビマニユを産み、パリークシットの祖母にあたる。叙事詩の人物であると同時に、オリッサのジャガンナート信仰においては兄二人とともに三体一組で祀られる女神でもある。カンサから逃れるために赤子のクリシュナと取り換えられた女児ヨーガマーヤーの転生とみる伝えもある。
神話・物語
婚姻の経緯は、この人物をめぐる中心的な物語である。兄弟間の取り決めを破って自ら追放に出たアルジュナは、十二年の旅の途上でプラバーサにてクリシュナと再会し、その都ドヴァーラカーへ赴いた。折しもライヴァタカ山で盛大な祭が始まるところで、参加した彼女を一目見たアルジュナは恋に落ちる。
相談を受けたクリシュナは、王族の女性の婚姻は婿選びで決するのが望ましいが、勇猛な王族の男にとっては力ずくで奪うこともまた称えられるとし、婿選びの結果は不確かであるから奪うべきだと助言した。アルジュナは戦車を駆り、礼拝を終えて帰る途上の彼女を連れ去る。
騒然となったヴリシュニ族に対し、バララーマはまずクリシュナの意向を問うべきだと諫めつつ、当のクリシュナには苦言を呈した。もてなした相手が一族を侮辱したのに、なぜ黙って見ているのかというのである。クリシュナは、アルジュナは侮辱したのではなくクシャトリヤにふさわしい手段を選んだのだと弁じ、礼を尽くして呼び戻すのが最善であると説いた。一族はこれに従い、アルジュナはドヴァーラカーへ引き返して婚礼を挙げた。
帰国したアルジュナにドラウパディーが不満を漏らしたときの一段も伝えられる。アルジュナは幾度も詫び、彼女を牛飼女の姿で王宮へ行かせた。ドラウパディーとクンティーに挨拶して「私は召使いの女です」と述べた彼女を、ドラウパディーは喜んで抱き締め、アルジュナが他に妻を持たぬようにと言ったという。先に迎えられた妻の面目を立てるという振る舞いによって、争いが未然に収められる場面である。
『バーガヴァタ・プラーナ』はまったく別の筋を伝える。バララーマが彼女をドゥルヨーダナに嫁がせようとしたため、アルジュナが隠者に扮してドヴァーラカーへ赴き、正体を悟られぬままバララーマの尊敬を得たうえで、祭礼に詣でる隙に連れ去ったとするものである。この版では二人が互いに恋していた点が強調される。
図像と象徴
叙事詩の人物としての固有の像容は伝わっていない。造形が現れるのは、ジャガンナート信仰の文脈においてである。プリーのジャガンナート寺院に安置される三体のうち、黄色い顔をもち、手足のない柱状の木像として刻まれるのが彼女である。黒いジャガンナート、白いバラバドラと並び、色と形によって見分けられる。ロサンゼルス郡立美術館が所蔵する19世紀後半のオリッサ絵画は、堂内に並ぶ三体を描いた作例として知られる。
系譜と関係
父はヴァスデーヴァ、母はデーヴァキー。兄はクリシュナとバララーマ。夫はアルジュナ、子はアビマニユ、孫がパリークシット。アルジュナの他の妻であるウルーピー、チトラーンガダー、そしてドラウパディーとは、それぞれ異なる形で関係を結んでいる。
文化的足跡
アビマニユがクルクシェートラで討たれたとき彼女は深く嘆き、戦が終わるとクリシュナとともにドヴァーラカーへ帰ったと語られる。他方、プリーでは毎年のラタ・ヤートラー(山車の行進)において、彼女のために独立した山車が仕立てられる。叙事詩における脇役としての扱いと、東インドにおける主要な女神としての地位との落差は大きく、同じ名がまったく異なる二つの文脈を生きている例といえる。