ビーマ
ビーマセーナ · ヴリコーダラ · バッラヴァ
パーンダヴァ五兄弟の次男で風神ヴァーユの子。一万頭の象に等しい怪力の持ち主とされ、誓いのとおり棍棒でドゥルヨーダナを討った。
解説
概要
ビーマ(Bhīma / भीम)は『マハーバーラタ』の英雄で、パーンダヴァ五兄弟の次男である。母クンティーが風神ヴァーユを招いて授かった子とされる。名はサンスクリットで「恐るべき男」を意味し、ビーマセーナ(恐るべき軍勢をもつ男)、ヴリコーダラ(狼の腹をもつ男)の別名でも呼ばれる。一万頭の象に等しい腕力の持ち主とされ、今日のインドでも怪力の者を俗にビーマと呼ぶ。棍棒と拳闘に長け、大食漢としても知られる。
神話・物語
幼少期から従兄弟のカウラヴァ百王子を苦もなく打ち負かしたため、長兄ドゥルヨーダナの嫉妬を買った。眠っているところを縛って急流に投げ込まれ、毒蛇に咬ませられ、食物に猛毒を盛られたが、いずれも通じなかったと語られる。燃えやすい館からの脱出では、疲れ果てた母と兄弟を担いで風のように駆けた。
その後、森でラークシャサのヒディンバを討ち、その妹ヒディンバーと結ばれてガトートカチャをもうける。エーカチャクラーの都では人身御供を強いていた羅刹バカを倒し、町を救った。叙事詩の前半における彼の役割は、人ならぬものを退けて共同体を守ることにある。
ユディシュティラの皇帝即位式に先立っては、マガダ王ジャラーサンダとの素手の格闘を十四日間続け、クリシュナの助言に従って背骨を砕いて討ち取った。追放中には、ドラウパディーに頼まれてサウガンディカの花を求めて森を進み、道に寝そべる老猿の尾を持ち上げられずに立ち往生する。猿は正体をハヌマーンと明かして彼を祝福した。怪力の英雄が自らを超える力に出会う挿話である。
彼を定義するのは二つの誓いである。骰子賭博の場でドゥフシャーサナが月経中のドラウパディーの髪を掴んで引き立て、衣を剥ごうとしたとき、ビーマはその胸を裂いて血を飲むと誓った。同じ場でドゥルヨーダナが左腿を見せる侮辱の仕草をしたときには、その腿を棍棒で砕くと誓った。クルクシェートラの戦いで彼はどちらも果たしている。ただし腿を打つことは、棍棒の師であるバララーマから聖典に反する反則であると叱責された。誓いを守ることと法を守ることが両立しない場面を、叙事詩は結末近くに置いている。
図像と象徴
棍棒を執る筋骨たくましい男として描かれる。戦車の旗標は瑠璃の眼をもつ銀製の巨大な獅子、法螺貝はパウンドラ、弓はヴァーヤヴィヤと呼ばれた。棍棒はマーンダートリ王がビンドゥサラス湖に安置したもので、十万の棍棒に匹敵するとされる。バリやジャワの影絵芝居ワヤンでは、堂々たる体躯と長い爪をもつビマとして最も人気の高い登場人物の一人となっている。
系譜と関係
母はクンティー、父はヴァーユ。兄はユディシュティラ、弟にアルジュナ、ナクラ、サハデーヴァ。妻は五兄弟共通のドラウパディーのほか、羅刹女ヒディンバーとカーシー国の王女バランダラーがあり、それぞれスタソーマ、ガトートカチャ、サルヴァガをもうけた。同じくヴァーユを父とするハヌマーンとは兄弟の関係にあたる。
文化的足跡
戦後、百人の息子をすべて失ったドリタラーシュトラは、抱擁を装ってビーマを絞め殺そうとした。これを察したクリシュナが鉄像を身代わりに置き、老王は像を砕いたのちに我に返って悔いたという。強さゆえに憎まれ、強さゆえに助かるという構図が最後まで貫かれている。インドネシアではビマの名で親しまれ、ジャワの物語『ビマ・スチ』では、師の命で生命の水を求めて海に潜り、自らの内なる神と出会う求道者として描かれる。荒々しい怪力の英雄が霊的探究者へ読み替えられた例である。
領分・別名
親・配偶者・子までを表示(全体はフル系図ページへ)。実線=主要伝承/点線=異伝・別系統。