ナクラ
グランティカ · アシュヴィン双神の子
パーンダヴァ五兄弟の四男でアシュヴィン双神の子。この世で最も美しい男とされ、剣術と馬術に優れた。サハデーヴァの双子の兄。
解説
概要
ナクラ(Nakula / नकुल)は『マハーバーラタ』の登場人物で、パーンダヴァ五兄弟の四男である。クル王パーンドゥの第二妃マードリーが、神々の医師アシュヴィン双神を招いて授かった双子の兄にあたり、弟がサハデーヴァである。この世で最も美しい男と称され、剣術に秀でた。馬に関する知識に通じ、その方面では並ぶ者がないとされる。
神話・物語
母マードリーは父パーンドゥの死に殉じたため、ナクラは兄たちの母クンティーに実子同様に育てられた。上の三兄弟に比べて叙事詩に占める分量は少ないが、要所で名が挙がる。
その名が最も重く響くのは、追放中の水辺の場面である。池の水を汲みに向かった彼を含む四人の弟が次々と倒れ、最後に赴いた長兄ユディシュティラがヤクシャの問答に応じた。答えに満足したヤクシャが弟一人の蘇生を許したとき、ユディシュティラが選んだのが同腹の弟ではなくナクラであった。二人の母それぞれに一人ずつ子が残るのが情理にかなうという理由である。ヤクシャはダルマ神の姿を現し、全員を蘇らせた。ナクラという名は、この一挙によって公平とは何かを示す語となっている。
ユディシュティラの皇帝即位式にあたっては西方へ派遣され、諸国を従えた。追放最後の一年をマツヤ国で過ごしたときは、グランティカと名乗って王の馬を管理する厩役に扮している。得意とする馬術がそのまま変装の生業になっている点は、他の兄弟の潜伏と同じ趣向である。
図像と象徴
固有の像容は伝わっていない。図像では、五兄弟が並ぶ場面のうち剣を執る若者として描かれるのが通例である。戦車の旗標には金の背をもつ鹿が掲げられ、法螺貝はスゴーシャ(美しき響き)と呼ばれた。美貌と剣、そして馬が、この人物を示す三つの標である。
系譜と関係
父はパーンドゥ、生母はマードリー、実質的な父はアシュヴィン双神。双子の弟にサハデーヴァ、異母兄にユディシュティラ、ビーマ、アルジュナ。五兄弟共通の妻ドラウパディーとの間にシャタニーカをもうけた。ほかにチェーディ国の王女カレーヌマティーを妻とする。カウラヴァ側の総大将となるマドラ王シャリヤは、母方の伯父にあたる。
文化的足跡
五兄弟のうちナクラとサハデーヴァは、単独の物語をほとんど与えられていない。とはいえ、五という数そのものが叙事詩の構造をなしており、知恵・力・技・美・知識という配分のうち、彼が担うのは容姿と技である。インドネシアの影絵芝居ワヤンではナクラの名で登場し、双子の兄弟として常に対で扱われる。