チトラーンガダー
チトラーンガダ · チトランガダー · Chitrangada
マハーバーラタに登場するマニプーラ王の一人娘でアルジュナの妻。王国を継ぐ男子を産む義務(プトリカー)を負っており、その条件のもとで婚姻が成立した。
解説
概要
チトラーンガダー(Citrāngadā)は、インドの叙事詩『マハーバーラタ』に登場する女性である。カリンガ国マニプーラの王チトラヴァーハナの一人娘で、アルジュナの妻の一人にあたる。
子はバブルヴァーハナ。
神話・物語
アルジュナは、ユディシュティラとドラウパディーのいる部屋に入ったため、兄弟間の協定によって十二年の追放を受けた。その間に諸国を旅し、マニプーラを訪れてチトラーンガダーと出会う。その美しさに魅せられ、婚姻を望んだ。
ここで一つの条件が生じる。チトラーンガダーの家系には、かつてプラバンガという子のない王がいた。苦行によってシヴァに認められ、代々一人ずつ子が生まれるという恩寵を授かる。以後この家系には必ず一人の男子が生まれ、王国を継承してきた。ところがチトラヴァーハナ王に生まれたのは王女チトラーンガダーであった。
そのため彼女は、父から王国を継承する男子を産むことを義務づけられていた。これをプトリカーと呼ぶ。娘を息子の代わりに立て、その子を家の後継とする制度である。
アルジュナは、男子が生まれたら王国を継がせるという条件でこれを承諾した。三年を彼女のもとで過ごしたのち旅に出て、五つの聖地を浄めてから再びマニプーラに戻り、二人のあいだにバブルヴァーハナが生まれる。アルジュナは子を残して王国を去った。
のちアシュヴァメーダ(馬祀祭)の際、成長したバブルヴァーハナは父と知らずにアルジュナと戦い、これを討つ。母と、アルジュナのもう一人の妻ウルーピーの力によって、アルジュナは蘇生した。
図像と象徴
固有の図像は伝わらず、本サイトも主画像を掲げない。
この人物を規定するのはプトリカーという制度である。神話上の恋物語でありながら、その中心にあるのは相続をめぐる取り決めである。息子を産むことを条件に結ばれ、産んだ息子は夫の家ではなく実家を継ぐ。婚姻の形が、家系の存続という要請によって決まっている。
関わる神格・伝承
夫はアルジュナ、子はバブルヴァーハナ。アルジュナの他の妻にはドラウパディー、スバドラー、ウルーピーがいる。
同名の人物が『マハーバーラタ』に複数おり、シャンタヌの子チトラーンガダ、ドゥルヨーダナの妻バーヌマティーの父、ヴィシュヴァカルマンの娘、ガンダルヴァ王チトラーンガダなどが知られる。本項が扱うのはアルジュナの妻である。
文化的足跡
ラビーンドラナート・タゴールは、この人物を主題とする舞踊劇『チトラーンガダー』を書いた。ラビーンドラ・ヌリッティヤ・ナーティヤ(タゴールの舞踊劇)の一つに数えられる。
タゴールの版では、チトラーンガダーは男子として育てられた武人であり、アルジュナに愛されるために美貌を願う。そして最後に、装った美しさではなく本来の自分として認められることを求める。原典の相続をめぐる物語が、近代において自己と承認の物語に読み替えられたことになる。
2012年にはリトゥパルノ・ゴーシュ監督のベンガル語映画『チトラーンガダー』が、この舞踊劇を下敷きに作られている。