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タナトス
PLATE — ΘΆΝΑΤΟΣ
HELLAS · ギリシア神話
ΘΆΝΑΤΟΣ

タナトス

タナトス · Thanatos · モルス(ローマ)

Jaime Ardiles-Arce PUBLIC DOMAIN

ギリシア神話で死そのものを神格化した神。ニュクスの子で、眠りの神ヒュプノスと双子。祭壇も供犠も持たず、祈りの通じない神である。

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解説

概要

タナトス(Θάνατος / Thanatos)は、死そのものを神格化したギリシアの神である。ニュクス(夜)が単独で生んだ子とも、エレボスとニュクスの子ともされ、眠りの神ヒュプノスと双子の兄弟にあたる。

彼には神殿も祭壇もない。贈り物を受け取らず、供犠にも歌にも心を動かさないと語られる。祈って意を曲げさせることができないという一点で、他の神々とは性格が違う。ギリシア人が死を「交渉の余地がないもの」として造形した結果である。

神話・物語

イーリアス』第16巻では、ゼウスの子サルペードーンが討たれたのち、ゼウスの命でヒュプノスとともに遺体をトロイアからリュキアへ運ぶ。ここでの二柱は無慈悲な連れ去り手ではなく、遺体を故郷へ返す運び手である。

エウリピデス『アルケースティス』では、夫の身代わりに死ぬ妃アルケースティスの魂を取りに現れる。約束の刻限どおりに来た彼は、モイライを騙して人間の寿命を延ばしたアポローンをなじり、予言を告げられても取り合わない。ただしこの劇では、ヘーラクレースが力ずくで魂を奪い返している。

そしてシーシュポスの一件である。連行に来た彼は枷の使い方を教えてほしいと乞われ、実演したところをそのまま縛られた。死が拘束されているあいだ、地上では誰も死ななくなる。アレースが彼を解き放って秩序が戻った。死の神が計略に負けるこの挿話は、彼が非情ではあっても賢くはないという造形を示している。

イソップ寓話にも顔を出す。薪に疲れた老人が「死よ来てくれ」と呼び、本当に現れると慌てて荷を持ち上げてほしいと言い直す話は、この神がいつでも来られる場所にいることを前提にしている。

図像と象徴

古い時代の彼は姿の定まらない概念にとどまるが、前6世紀以降は有翼の男性として描かれるようになる。剣を持ち黒衣をまとった蒼白な老人とも、ヒュプノスによく似た若者ともいわれ、資料によって年齢が定まらない。

本ページの主画像は、エウクシテオスが作りエウプロニオスが絵付けした赤絵式カリュクス・クラーテール(前515年頃)で、サルペードーンの遺体をヒュプノスとタナトスが運び上げ、ヘルメースがそれを見守る場面を描く。左右対称に配された二柱には銘が添えられ、傷から血の流れる遺体を黙って支える翼の兄弟という構図は、古典期の陶画の到達点として名高い。この壺は長くニューヨークのメトロポリタン美術館にあったが、出土経緯をめぐる問題から2008年にイタリアへ返還された。

エペソスのアルテミス神殿の柱彫刻(前4世紀、大英博物館)にも、有翼で剣を携えた人物がタナトスと解される形で現れる。ローマ期の石棺では、伏せた松明を持つ有翼の少年として彫られるようになる。老人から少年へ、剣から消えた炎へ——死の図像が置き換わっていく過程が、そこに読み取れる。

系譜と関係

母はニュクス。父を立てる伝承ではエレボス。双子の兄弟はヒュプノス(眠り)であり、同じ母から生まれたモロス(定業)、ケールネメシス、モイライらと並ぶ。住まいはタルタロスの領域とも、冥界の門の近くで夢たちがまとわりつく楡の大樹の周りともいわれる。

ハーデースとしばしば混同されるが、役割は別である。ハーデースは冥界の統治者であり、タナトスは死という出来事そのものを担う。魂を運ぶ役も、英雄についてはヘルメースが務めるとされることが多い。ローマではモルス(Mors)に対応する。

文化的足跡

生の欲動エロースに対置される死の欲動を「タナトス」と呼ぶ用法は精神分析に由来するが、フロイト自身はこの語を用いず、独語のトーデストリープ(死の欲動)と書いた。神名を当てたのは後続の分析家である。英語の euthanasia(安楽死)は、「良き」を意味する eu- とこの神の名から成る。

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領分・別名

INTERPRETATIO — 同一視・同源
モルス ローマ神話 同一視
モルスはギリシアのタナトスに相当する死の擬人神。ラテン語では女性名詞だが美術は男として描く。

親・配偶者・子までを表示(全体はフル系図ページへ)。実線=主要伝承点線=異伝・別系統

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資料

Wikidata
Q199647 — 骨格データの出典
Commons
Thanatos — 図像カテゴリ