エウリュビアー
エウリュビア · Eurybiā
ポントスとガイアの娘。鋼の心を持つと歌われた海の女神で、ティーターンのクレイオスと結ばれ、星と風と権力の神々の祖となった。
解説
概要
エウリュビアー(Εὐρυβία / Eurybia)は、ポントスとガイアの娘で、ネーレウス・タウマース・ポルキュース・ケートーを兄弟姉妹とする女神である。名は「広く力ある女」と解される。ヘーシオドス『神統記』はこの女神を、胸のうちに鋼(アダマース)の心を持つ者と形容した。海から生まれた一族のなかで、怪物でもなく穏やかな海でもない、力そのものを名とする女神である。
神話・物語
物語は伝わらず、系譜のうえでのみ語られる。だがその位置は軽くない。ティーターンのクレイオスと結ばれ、アストライオス、パラース、ペルセースの三柱を生んだ。海から出た女神がティーターンの世代と結ばれることで、二つの系統がここで交わる。
子孫の顔ぶれがその意味を示している。アストライオスは暁の女神エーオースと結ばれ、明けの明星エーオスポロス、宵の明星ヘスペロス、そして四方の風を生んだ。パラースは冥河の女神ステュクスを妻とし、ニーケー・クラトス・ビアー・ゼーロス——勝利・力・暴力・競争心——の父となった。ペルセースはアステリアーとのあいだに、天地海に分け前を持つヘカテーをもうけた。星々と風、ゼウスの玉座を固める四柱、そして三界の女神。いずれもエウリュビアーの孫にあたる。
「鋼の心」という形容が、子の名の連なりと響き合っていることは見逃せない。ヘーシオドスの系譜が、単なる血縁の記録ではなく、神々の性格を配置によって語る仕組みになっていることを示す一例である。
なお、テスピオスの五十人の娘の一人にも同名のエウリュビアーがおり、ヘーラクレースとのあいだにポリュラーオスを生んだと伝えられる。別人である。
図像と象徴
名を明示した古代の作例は知られていない。海の女神でありながら海の図像を持たず、ティーターンの妻でありながらティーターンの図像にも現れない。系譜の結節点としてのみ機能する神格の典型であり、本項では主画像を置いていない。
系譜と関係
父ポントス、母ガイア。夫はティーターンのクレイオス。子はアストライオス、パラース、ペルセース。水神・海神のファセットに数えられるが、これは出自によるものであって、この女神が海の何かを司ったという伝えはない。ポセイドーンの支配下にある副次的な海の女神と説明されることもあるが、これは後世の整理である。
文化的足跡
キク科の植物の属名エウリュビア(Eurybia)にその名が用いられている。神格そのものが後世の文学や美術に現れることはほとんどない。
領分・別名
親・配偶者・子までを表示(全体はフル系図ページへ)。実線=主要伝承/点線=異伝・別系統。