タウマース
タウマス · Thaumās
ポントスとガイアの子である海神。名は「驚異」に通じる。虹の女神イーリスと、ハルピュイアたちの父にあたる。
解説
概要
タウマース(Θαύμας / Thaumas)は、ポントスとガイアの子で、ネーレウス・ポルキュース・ケートー・エウリュビアーを兄弟姉妹とする海神である。名はギリシア語のタウマ(驚異、不思議)に通じるとされ、海に現れる異様な光景——たとえば虹や竜巻や光の柱——を思わせる。
固有の物語は伝わらない。この神を特徴づけるのは、生んだ子の組み合わせである。
神話・物語
『神統記』によれば、オーケアノスの娘エーレクトラーを妻とし、虹の女神イーリスと、二人のハルピュイア——アエッロー(疾風)とオーキュペテー(速く飛ぶ者)——をもうけた。虹と突風という、どちらも空に現れて速やかに去る現象が、同じ父から生まれた姉妹とされている。海の神から天の現象が生まれるという配置は、水が立ち昇って空の異変となるという素朴な観察と結びつけて説明されることが多い。
異伝もある。イーリスと三人のハルピュイア——ケライノー、オーキュペテー、ポダルゲー——をもうけたとする伝えや、オゾメネーとのあいだにアエロープス、ケライノー、オーキュペテーの三人をもうけたとする伝えがある。ハルピュイアの数と名は古代を通じて一定しない。ウァレリウス・フラックスはテューポーンを父とし、セルウィウスはポントスとガイアの子ともポセイドーンの子ともするので、タウマースを父とする系統は複数ある伝えの一つにすぎない。
図像と象徴
名を明示した古代の作例は知られていない。娘イーリスが翼と伝令の杖という明確な標識を得たのに対し、父には何も与えられなかった。アコッラ出土の後期ローマ期モザイク(チュニス、バルド国立博物館)に描かれた三柱の水の神のうち、左の一柱をタウマースと見る説があるが、トリートーンとする読みもあり確定しない。したがって本項では主画像を置いていない。
系譜と関係
父ポントス、母ガイア。妻はオーケアニスのエーレクトラー。子はイーリスとハルピュイアたち。水神・海神のファセットのなかで、この神は海の恵みも恐怖も担わず、ただ子を通じて海と空をつなぐ位置にある。兄弟のうちネーレウスが穏やかな海を、ポルキュースとケートーが怪異の海を担うとすれば、タウマースが担うのは海の上に立ち現れる不思議ということになる。
文化的足跡
後世の文学がこの神を単独で取り上げることはほとんどない。名は、驚異を意味する英語の thaumaturgy(奇跡を行う術)などに用いられるギリシア語要素として残っている。
領分・別名
親・配偶者・子までを表示(全体はフル系図ページへ)。実線=主要伝承/点線=異伝・別系統。