アステリアー
アステリア · アステリエー · オルテュギア
コイオスとポイベーの娘でレートーの姉妹。ゼウスの求めを拒んで鶉に、そして漂う島に変じた。その島がデーロスであり、アポローンとアルテミスの生地となった。
解説
概要
アステリアー(Ἀστερία、「星の」「星に満ちた」)は、ギリシア神話の女神である。ティーターンのポイベーとコイオスの娘で、レートーの姉妹にあたる。
ヘーシオドスによれば、ティーターンのペルセースとのあいだに一人娘ヘカテーをもうけた。
ゼウスに追われ、これを逃れるために鳥に、そして漂う島に姿を変えたことで知られる。
神話・物語
ティーターノマキアーののち、この女神はオリュンポスに住んでいた。姉妹のレートーと同じく、彼女もゼウスに愛される。
その求めを拒み、逃れるために鶉に姿を変えて海へ身を投じた。落ちた場所は漂う島となり、オルテュギア(「鶉の島」)と呼ばれる。
やがてゼウスによって身ごもったレートーが産の時を迎えたとき、ヘーラーはレートーにいかなる地も宿を貸すことを禁じた。地上でただ一つ、彼女を迎え入れたのがこの島である。漂う島は大地に固定されていなかったため、ヘーラーの禁令の及ぶところではなかった、という説明もなされる。
ここでアポローンとアルテミスが生まれた。島はデーロス(「顕れた」の意)の名を得て、アポローンがこれを海底に固定し、自らの聖地とした。
一つの伝えによれば、この女神はヘカテーの母であるが、父はペルセースではなくゼウス自身であるという。ムーサイオスに帰されるこの版では、ゼウスは彼女をしばらく愛人としたのち、ペルセースに引き渡した。
図像と象徴
本サイトが掲げるのは、アッティカ赤絵式の壺絵である(前450年頃、コマッキオの画家、アテネ国立考古学博物館蔵)。左からオイノコエーを持つアルテミス、月桂樹の枝とフィアレーを持つアポローン、そして右端にデーロス島の擬人像が坐す。
この女神を直接描いた古代の作例は乏しい。代わりに残るのは、彼女が変じたデーロス島の擬人像である。姿を失った者が、その姿を失った先の土地として描かれる。
名はアステール(ἀστήρ、「星」)に由来し、印欧祖語の *h₂ster-(「星」)、さらに *h₂eh₁s-(「燃える」)に遡る。従兄弟のアストライオスと、その娘アストライアーの名も同じ語源を共有する。
星の女神が鶉となり、島となる——変身の連鎖が、天から海へ、そして大地へと降りていく。姉妹のレートーがゼウスを受け入れて神々を産んだのに対し、この女神は拒んで場所になった。産む者と産む場所を提供する者が、姉妹として対に置かれている。
系譜と関係
父はコイオス、母はポイベー。姉妹はレートー。夫はペルセース、娘はヘカテー。
デーロス島は、古代ギリシアにおいてアポローン信仰の中心地の一つであった。デーロス同盟の名の由来でもあり、前5世紀のアテーナイ帝国の財庫が置かれた場所である。神話上の島が、実際の政治の舞台になっている。
文化的足跡
日本語圏では、デーロス島の由来としてこの女神の名が挙げられることがある。アポローンとアルテミスの誕生譚は広く知られる一方、その舞台となった島がもともと一人の女神であったことまで語られる機会は少ない。
追われた女が土地に変わるという結末は、ダプネーが月桂樹に変わる筋と同じ型に属する。逃れることが、人であることをやめることによってしか達成されない——ギリシアの変身譚が繰り返す構造である。
領分・別名
親・配偶者・子までを表示(全体はフル系図ページへ)。実線=主要伝承/点線=異伝・別系統。