ケートー
ケト · ケイトー · Keto
ポントスとガイアの娘。名は「海の怪物」を意味し、海の危険と未知を体現する。兄ポルキュースを夫とし、ゴルゴーン姉妹らを生んだ。
解説
概要
ケートー(Κητώ / Ceto)は、ポントスとガイアの娘で、ネーレウス・タウマース・ポルキュース・エウリュビアーを兄弟姉妹とする女神である。名はギリシア語のケートス、すなわち鯨や鮫を含む「海の巨獣」を指す語に由来し、海の危険と、そこに潜む未知の生き物そのものを神格化した存在とされる。兄ポルキュースを夫とし、その子と孫はことごとく怪物となった。
神話・物語
物語らしい物語はなく、系譜のなかでのみ語られる。『神統記』はケートーとポルキュースの子として、生まれながらの老女であるグライアイ三姉妹と、メドゥーサを含むゴルゴン三姉妹、そして黄金の林檎の番をする竜ラードーンを挙げる。ヘーシオドスの文はどの「彼女」が誰を指すのか曖昧な箇所が多く、エキドナやスキュラ、セイレーンの母をケートーと読む余地もあれば、別の女神と読む余地もある。同じ理由で、ネメアーの獅子やオルトロスの母をケートーとする読みも成り立ちうる。ギリシアの怪物の系図が一本の線として書かれていないことを、この女神ほどよく示す例はない。
名がそのまま怪物を意味する語であることは、この神格を理解するうえで重要である。ペルセウスがアンドロメダーを救う場面に現れる海の怪物も、アンドロメダー神話の文脈ではケートスと呼ばれる。神の名と、その神が体現する存在の名が同じであるため、古代の作例に描かれた海獣を女神ケートーと同定することは原理的に難しい。
図像と象徴
ケートーを名指した古代の作例はごく限られる。アコッラ出土の後期ローマ期モザイク(チュニス、バルド国立博物館)には、夫ポルキュースの右隣に妻として並ぶ姿が確認できるが、これは夫婦を一組として構成した群像の一部であり、単独の像ではない。本項では、その一部を切り出して主画像とすることを避けている。海獣を描いた壺絵は数多いものの、それらは怪物ケートスであって女神ケートーではない。
系譜と関係
父ポントス、母ガイア。夫は兄ポルキュース。子はゴルゴン姉妹、グライアイ姉妹、ラードーン。水神・海神のファセットのなかでは、恵みをもたらす海ではなく、船乗りを呑み込む海の側に属する。母娘・兄妹が同じ性格を共有し、その系統が丸ごと怪物の一族として括られている点で、ギリシアの系譜が持つ分類の機能がよく現れている。
文化的足跡
太陽系外縁天体の一つ、65489 ケトにその名が与えられている。この天体は衛星を持ち、そちらには夫にちなんでポルキュスの名が付けられた。海の怪物を意味する語から、鯨類を指す学術用語ケタケア(Cetacea)が作られている。
領分・別名
親・配偶者・子までを表示(全体はフル系図ページへ)。実線=主要伝承/点線=異伝・別系統。