ゼーロス
ゼロス · ゼーロース · Zelos
競争心・熱意を擬人化したギリシアの神。ステュクスとパラースの子で、ニーケー・クラトス・ビアーの兄弟としてゼウスに侍る。
解説
概要
ゼーロス(Ζῆλος / Zelus)は、競争心・対抗意識・熱意を擬人化したギリシアの神である。ステュクスとパラースの子で、ニーケー・クラトス・ビアーを兄弟にもつ。ゼーロスという語は、他者に並ぼうとする張り合いと、その裏返しの妬みの双方を含む。英語の zeal と jealous がともにこの語に遡るのは、そのためである。
神話・物語
ヘーシオドス『神統記』とアポロドーロス『ビブリオテーケー』が、四兄弟の一柱として名を挙げるにとどまる。ティーターノマキアーに際して母ステュクスがゼウスの側についたことにより、以後ゼウスのかたわらを離れない神々の一員となった。固有の物語を持たない点は、兄弟のなかでも際立っている。
同じヘーシオドスの『仕事と日』では、この語がまったく別の顔を見せる。冒頭では、隣人が隣人と張り合い(ゼーロー)、陶工が陶工を妬むのは、人を働かせる善い争いの働きだとされる(23〜25行)。一方、鉄の種族の末世を語る箇所(195〜196行)では、口汚く、悪事を喜び、憎々しい顔をしたゼーロスが、惨めな人間すべてに付き従うようになると予言される。ここでのゼーロスは擬人化とも普通名詞とも読め、ゼウスの側近として讃えられる神と、人を蝕む妬みとが、同じ詩人のなかで同じ名を持っている。
競争心が勝利・力・暴力と同じ列に置かれているのは、ギリシアの都市国家において、競技も訴訟も政治も張り合いのかたちを取ったことと無縁ではないだろう。
図像と象徴
名を伴う古代の作例は知られておらず、近代の図像も乏しい。抽象語の神格すべてが図像を得たわけではないことを示す例である。本項では主画像を置いていない。
系譜と関係
父パラース、母ステュクス。兄弟にニーケー、クラトス、ビアー。四柱そろってゼウスの座を固める側近と位置づけられる。
文化的足跡
キリスト教のギリシア語文献では zēlos が神への熱心を意味する語として用いられ、そこからラテン語 zelus を経て近代語の zeal に至った。神格としてよりも語として広く伝わったという点で、兄弟のビアーと似た経路をたどっている。
領分・別名
親・配偶者・子までを表示(全体はフル系図ページへ)。実線=主要伝承/点線=異伝・別系統。