ヘスペロス
ヘスペロス · ウェスペル · Hesperus
宵の明星を人格化したギリシアの神で、暁の女神エーオースの子。明けの明星ポースポロスの異母兄弟とされ、宵と暁の金星を別の神格として立てていた古い天体観の名残である。ローマのウェスペルにあたる。
解説
概要
ヘスペロス(Ἕσπερος、「夕」)は、ギリシア神話で宵の明星——夕方に見える金星——を人格化した神である。
暁の女神エーオースの子であり、明けの明星ポースポロス(エーオースポロスとも)の異母兄弟にあたる。ローマにおける対応はウェスペルである。
神話・物語
一つの伝えでは、ヘスペロスの父は人間のケパロス、ポースポロスの父は星の神アストライオスとされる。他の資料はヘスペロスをアトラースの兄弟とし、したがってイーアペトスの子とする。
同じ金星を指す名でありながら、宵と暁で別々の神格が立てられている。ギリシア人が宵の明星と明けの明星を同一の天体と認識したのは前6世紀のピュタゴラスあるいはパルメニデースの頃とされ、それ以前は別の星と考えられていた。二人の神格は、その認識の名残である。
ヒュギーヌスは、ヘスペロスをケーユクスの父とする。オウィディウスでは、ケーユクスとその兄弟ダイダリオーンの父は明けの明星ルキフェルである。
図像と象徴
宵の明星を表したと確かめられる古代の作例は少なく、本サイトも主画像を掲げない。
名は「夕」を意味し、ヘスペリス(夕の)、そして西を意味する語群と結びつく。ヘスペリデス——世界の西の果てで黄金の林檎を守るニュンペーたち——の名も同じ語根に発し、ヘスペロスの娘とする伝えもある。
明けの明星ポースポロス(「光をもたらす者」)は、ラテン語でルキフェルと訳される。ヘブライ語聖書のイザヤ書14章12節の「ヘーレール、シャハルの子」(輝く者、暁の子)を、七十人訳はヘオースポロスと、ヒエロニュムスのウルガタはルキフェルと訳した。宵の明星の兄弟の名が、この経路で堕天使の名になっている。
系譜と関係
母はエーオース、兄弟はポースポロス。子にケーユクス(ヒュギーヌス)。ヘスペリデスの父とする伝えもある。
文化的足跡
サッポーの断片に、ヘスペロスへの讃歌がある。暁が散らしたものをすべて連れ戻す星——羊を、山羊を、そして子を母のもとへ——と歌われる。
ラテン語のウェスペル(宵、宵の明星)は、キリスト教の夕べの祈り「晩課」(英 vespers)の名に残る。
領分・別名
親・配偶者・子までを表示(全体はフル系図ページへ)。実線=主要伝承/点線=異伝・別系統。