ポルキュース
ポルコス · ポルキュス · Phorkys
ポントスとガイアの子である海神。「海の老人」の一人に数えられ、妹ケートーとのあいだにゴルゴーン姉妹をはじめ数々の怪物をもうけた。
解説
概要
ポルキュース(Φόρκυς / Phorcys)は、ポントスとガイアの子で、ネーレウス・タウマース・ケートー・エウリュビアーを兄弟姉妹とする海神である。ポルコスの形でも伝わる。ネーレウス、プローテウスとともに「海の老人」と呼ばれる神の一柱で、静かな入り江や浜辺を住処とするとされた。
ただしこの神の名がもっとも頻繁に現れるのは、穏やかな海の描写ではなく、怪物たちの系図である。妹ケートーを妻とし、ゴルゴン三姉妹とグライアイ三姉妹の父となった。
神話・物語
固有の物語はほとんど伝わらない。ホメーロス『オデュッセイア』では、イタケー島の入り江がポルキュースの名で呼ばれ、オデュッセウスが帰郷して上陸するのがこの浜辺である。神そのものというより地形の名として現れる用法であり、この神の性格をよく示している。
系譜の側は逆に多弁である。メドゥーサを含むゴルゴン姉妹、一つの目と一つの歯を分け合う老女グライアイ、黄金の林檎を守る竜ラードーンがその子とされる。さらに資料によってはエキドナ、スキュラ、セイレーン、そしてポセイドーンとのあいだに一つ目の巨人ポリュペーモスを生んだニュンペーのトオーサもここに数えられる。フランシスコ・ディエス・デ・ベラスコは、ポントスの子らのうちネーレウスが恵み深い海を、ポルキュースらが怪異に満ちた海を表すと読んだ。同じ海の一族が、船乗りにとっての海の二つの顔に振り分けられているという理解である。
なお、トロイア戦争でトロイア側について戦ったプリュギアの武将にも同名のポルキュースがおり、別人である。
図像と象徴
名を明示した古代の作例は少ないが、確実なものが残る。本項に掲げたのは、チュニジアのアコッラにあるトラヤヌス浴場から出土した後期ローマ期のモザイク(チュニス、バルド国立博物館)で、三柱の水の神が並ぶ。中央がポルキュース、右が妻ケートー、左はトリートーンあるいはタウマース——あるいはさらに無名の海神——と解される。ポルキュースは魚の尾と蟹の鋏を備えた姿で表され、海の生き物を身にまとうという海神の表現に従っている。
夫婦を並べて描くこの構図は、ヘーシオドスの系譜をローマ期の職人が読み込んだ結果とみてよい。ペルガモンの大祭壇の海の一族の配置にも通じる考え方である。
系譜と関係
父ポントス、母ガイア。妻は妹ケートー。子はゴルゴン姉妹とグライアイ姉妹、およびラードーン。水神・海神のファセットのなかでは、海の恵みではなく海の恐ろしさを担う側に立つ。「海の老人」と呼ばれる神が複数いること自体、この称号が特定の神格の固有名ではなく、古い海神一般への呼びかけだったことを示している。
文化的足跡
太陽系外縁天体ケト(65489 Ceto)の衛星に、夫にちなんでポルキュスの名が与えられている。夫婦の神格が連星の名として並べられた例である。
領分・別名
親・配偶者・子までを表示(全体はフル系図ページへ)。実線=主要伝承/点線=異伝・別系統。