テスピオス
テスティオス (テスピアイ) · Thespius · Thespios
ボイオーティアの都市テスピアイの創建者。五十人の娘を夜ごとヘーラクレースの寝所に送り、五十人の孫を得た。その子孫がサルディニアへ植民したとされる。
解説
概要
テスピオス(Θέσπιος)は、ギリシア神話のボイオーティアの都市テスピアイの創建者にして王である。テスティオスとも呼ばれる。
なお、アイトーリアのプレウローン王テスティオスとは別人であり、両者はしばしば混同される。
神話・物語
アテーナイ王エレクテウスと、おそらくプラークシテアーの子とされる。他の資料はエレクテウスの子孫とし、あるいはパンディーオーンの子テウトラースの子、あるいはケーペウスの子ともいう。
アルネウスの娘メガメーデーを娶り、五十人の娘をもうけた。この娘たちはテスピアデスと呼ばれ、ギュスターヴ・モローの1853年の絵画の主題にもなっている。
最もよく知られるのが、ヘーラクレースをめぐる挿話である。
キタイローン山の獅子が家畜を荒らしていたころ、若いヘーラクレースはこれを退治するためテスピオスのもとに滞在した。王はこの英雄の血を自家に取り込むことを望み、五十日にわたって夜ごと娘の一人ずつを英雄の寝所に送った——ヘーラクレースは同じ娘だと思っていたともいう。あるいは一夜のうちに五十人全員と交わったともいう。こうして五十人の息子が生まれ、テスピアダイと呼ばれた。
娘たちのうち一人だけが拒み、生涯処女のままテスピオスのヘーラクレース神殿の女祭司になったとされる。
テスピアダイの多くはのちに、ヘーラクレースの甥イオラーオスに率いられてサルディニアへ植民した。
図像と象徴
固有の図像は伝わらず、本サイトも主画像を掲げない。
この王が体現するのは、英雄の血を求める王権の欲求である。五十人の娘を差し出すという設定は、極端であるがゆえに、その意図を隠さない。神の子の血統を自家に取り込むことが、王の望みとして語られている。
数の誇張——五十人の娘、五十夜、五十人の息子——は、ギリシア神話における多産の表現である。ダナオスの五十人の娘、プリアモスの五十人の息子と同じ型に属する。
系譜と関係
父はエレクテウス(あるいはその子孫)、妻はメガメーデー、娘は五十人のテスピアデス、孫は五十人のテスピアダイ。
プレウローン王テスティオスとの混同は、名の近さによる。当DBでは両者を別項目として立て、それぞれの項で相互に注意を促している。
文化的足跡
テスピアイはボイオーティアの都市として歴史上も存在し、エロース崇拝で知られた。テルモピュライの戦いでスパルタ軍とともに最後まで留まった七百人のテスピアイ兵の都市でもある。
日本語圏では、ヘーラクレースの五十人の娘との挿話として紹介される程度である。しかしこの挿話が、サルディニアへの植民という歴史的な移動の説明譚として機能している点は、あまり語られない。