ネーレウス
ネレウス · 海の老人
ギリシア神話の海神で「海の老人」と呼ばれる。穏やかな内海を体現し、予言の力と変身の力をもつ。ネーレーイデスと呼ばれる五十人の娘の父。
解説
概要
ネーレウス(Νηρεύς / Nereus)は、ギリシア神話の海神である。ポントス(海)とガイア(大地)の子で、タウマース、ポルキュース、ケートー、エウリュビアーを兄弟姉妹とする。ポセイドーンのような支配者としての海神ではなく、穏やかな内海そのものを体現する古い層の神格であり、ヘーシオドスもホメーロスもこれを「海の老人」と呼ぶ。正直で穏和、そして偽りを語らない神とされる。
神話・物語
ネーレウスの力は、予言と変身の二つである。ヘーラクレースがヘスペリデスの園への道を知ろうとしたとき、海辺で眠るこの神を捕らえた。ネーレウスは水に、火に、獣にと次々に姿を変えて逃れようとしたが、離さない英雄の力に屈し、ついに道を教えた。真実を知る者を捕らえて縛り、変身に耐えて答えを引き出すという型は、プローテウスをめぐる『オデュッセイア』の挿話と共通する。ホメーロスはプローテウスも「海の老人」と呼ぶため、両者は古代からしばしば混同された。
娘たちの父としての役割も大きい。ドーリスとのあいだにもうけたネーレーイスたちのなかには、アムピトリーテー、テティス、ガラテイアらがいる。海の系譜がネーレウスを起点に張りめぐらされている。
図像と象徴
古代美術では長い髭をたくわえた老人の姿で表される。前6世紀の黒絵式陶器では、下半身を魚とする半人半魚の姿でヘーラクレースと組み合う場面が繰り返し描かれた。ただしこの図像はのちにトリートーンと表記されるようになり、ネーレウスは全身を人の姿で、格闘を傍らから見守る役に退く。同じ図像が別の神の名で呼ばれるようになる過程が追える、めずらしい例である。
本項に掲げたのは、前2世紀のペルガモンの大祭壇の巨人戦争浮彫に現れるネーレウスである。台座の銘によって神々の名が確認できるため、同定の確かな数少ない作例にあたる。
系譜と関係
父ポントス、母ガイア。妻ドーリス。娘たちがネーレーイデス。ティーターン神族に数えられることもあるが、『神統記』の系譜ではティーターンとは別系統の、海から生じた神々の列に属する。水神・海神のファセットのなかでは、外海を支配する神ではなく、船乗りに恵みをもたらす内海の側に立つ。
文化的足跡
ネーレウスの名は、その娘たちの名とともに、ヘレニズム期以降の石棺装飾に受け継がれた。海を渡って行く死者の旅という主題が、海の神々の一族に託されたのである。
領分・別名
親・配偶者・子までを表示(全体はフル系図ページへ)。実線=主要伝承/点線=異伝・別系統。