ダグザ
ダグダ · ダザ · An Daghdha
アイルランド神話の大神。トゥアハ・デ・ダナーンの王にして父なる神であり、涸れぬ大釜と生死を分かつ棍棒、季節を巡らせる竪琴を持つ。
解説
概要
ダグザ(The Dagda、古アイルランド語 In Dagda)は、トゥアハ・デ・ダナーンの主神である。名はケルト祖語 *Dago-dēwos「善き神」あるいは「大いなる神」に遡る。父であり王でありドルイドであって、豊穣と農耕、力、そして魔術と知識を領分とする。生と死、天候と作物、季節と時間を左右する。
添え名が多い。エオヒド・オラサル(「馬乗り、大いなる父」)、ルアド・ロヴェサ(「大いなる知の主」)、ダーレ(「実らせる者」)、アド(「火の者」)、フェル・ベン(「角ある者」または「峰の者」)。死と祖先の神ドンも、もとはダグザの一相だった可能性が指摘される。
神話・物語
その姿はしばしば滑稽に描かれる。丈の足りない外套を着た大男で、飽くことを知らない。『マグ・トゥレドの戦い』のよく知られた一節では、休戦中にフォモール族の陣を訪れたダグザが、地面に掘った穴いっぱいの粥を食えと迫られる。牛乳と麦と脂に、山羊と羊と豚を丸ごと放り込んだ粥である。断れば殺される。彼は男女が並んで寝られるほどの大杓子で穴の底まで浚い、腹は家の大釜より大きくなった。それでもフォモールの娘のもとへ向かう。
同じ戦いで、ルーに何の力をもって戦うかと問われた彼は答える——アイルランドの者たちの側に立って、打ち合いでも破壊でも魔術でも戦おう。わが棍棒の下に積まれる敵の骨は、馬の群れの足元の霰ほどになろう、と。開戦前のサウィンの夜には、ウニウス川で身を洗うモリガンと交わり、彼女から助力の約束を得た。
竪琴を奪われた話もある。フォモールが竪琴とその奏者ウァスネを連れ去ったとき、ダグザは敵の館へ乗り込み、「来い、ダウル・ダー・ブラー、来い、コール・ケハルヒル、来い夏よ、来い冬よ」と二つの名で呼んだ。竪琴は壁から飛び降りて主の手に戻る。彼はそこで三つの調べ——笑いと嘆きと眠り——を奏し、フォモールを動けなくして逃れた。
ボアン(ボイン川の女神)との情事も語られる。夫エルクマルを一日の使いに出したうえで、ダグザは太陽を止めて時の流れを隠し、九か月を一日に畳み込んだ。こうして生まれたのがオェングスである。この話を、ブルー・ナ・ボーニャ(ニューグレンジ)の冬至の日照——羨道が朝日を奥室まで導く現象——の説話化とみる解釈があり、アイルランド語で冬至を grianstad(太陽の静止)と呼ぶことがその傍証とされる。
図像と象徴
古代の図像はない。ダグザを見分けるのは姿ではなく持物である。
視覚像はケルト復興期の挿絵に始まる。本サイトが掲げるのは、H・R・ミラーがロールストン『ケルト民族の神話と伝説』アメリカ版(ボストン、ニカーソン、1910年)に寄せた《ダグザの竪琴》で、フォモールの館の壁から竪琴が主の手へ飛び戻る場面を描いている。
第一に棍棒(lorg mór)。一方の端は一撃で九人を殺し、もう一方の滑らかな端は死者を生き返らせる。彼はこれで息子ケルマイトを蘇らせた。生と死が一本の柄の両端に配されている。
第二に大釜(コイレ・アンシク、「涸れぬ釜」)。四つの秘宝の一つで、集まった者が満たされずに立ち去ることはなかったという。
第三に竪琴。オークに彫られ、二つの名で呼ばれなければ音を発しない。ダグザが弾けば季節が正しい順に並ぶ。
ほかに、片方が育ちつづけ片方が焼かれつづける二頭の豚、実の絶えない果樹、黒い鬣の牝牛を持つ。牝牛が仔を呼べば、貢納としてフォモールに奪われたアイルランドじゅうの牛が草を食みに戻ったという。棍棒も釜も竪琴も、尽きないこと、あるいは反転することを本質としている。
系譜と関係
父はデルバイスの子エラハ。兄弟としてヌアザとオグマの名が挙がるが、オグマとの対のみを語る伝えもある。妻はモリガン、愛人はボアン。子にはオェングス、ケルマイト、アド(「ダグザの三子」)、ブリギッド、ボズヴ・ジャルグがいる。『ディンシェンハス』は娘アインゲのために、潮が満ちれば漏れ、引けば漏れない桶を作った話を伝える。
ケルマイトはルーに殺され、その報復にケルマイトの三子がルーを討った。神々のあいだの殺害と復讐が、そのまま王位の交替を刻んでいる。
槌と壺を持つ姿で表されるガリアの神スケッルス、ゲルマンのオーディン、ローマのディス・パテルとの比較が古くから行われてきた。いずれも機能上の類似であって、同一視や同源を示す史料はない。
文化的足跡
在位は七十年とも八十年とも伝えられ、マグ・トゥレドの戦いでケフレンから受けた傷がもとで、ブルー・ナ・ボーニャで死んだとされる。ウィシュナッハ、グリアナン・オヴ・アリアッハ、ローホ・ネイ、ノック・アイヴィーといった土地が彼の名と結びつく。ウィ・エハハやダーリネなど、いくつかの部族はダグザを祖と仰ぎ、その名を負った。
後代の収穫の民俗行事に現れるクロム・ドゥヴとの連続を説く議論もある。現代の幻想文学やゲーム作品では、棍棒と大釜を携えた父なる神として登場する。
領分・別名
親・配偶者・子までを表示(全体はフル系図ページへ)。実線=主要伝承/点線=異伝・別系統。