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ブリギッド
PLATE — BRIGIT
CELTAE · ケルト神話
BRIGIT

ブリギッド

ブリギット · ブリード · ブリジット

John Duncan PUBLIC DOMAIN

アイルランドの女神。ダグザの娘で、詩と予言・治癒・鍛冶を司る同名の三姉妹として語られる。同じ名を持つ聖女キルデアのブリギッドと深く重なり合う。

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解説

概要

ブリギッド(Brigid、中期アイルランド語 Brigit、現代アイルランド語 Bríd)は、キリスト教化以前のアイルランドの女神である。トゥアハ・デ・ダナーンの一員で、ダグザの娘、ブレスの妻とされる。と予言、治癒、鍛冶、そして家畜を領分とする。

名はケルト祖語 Brigantī に遡り、「高き者」を意味する。印欧祖語 bʰerǵʰ-(高くなる)から派生した語で、ブリテンの女神ブリガンティア、古高ドイツ語の人名ブルグント、サンスクリットの bṛhatī(高い。暁の女神ウシャスの添え名)と同源である。ドラマールはカンパニーレを引いて、この女神が印欧語族の暁の女神の系譜を引く可能性を示唆する。ただし名が同源であることと神格が連続することは別であり、この推定には慎重さがいる。

神話・物語

9世紀の『サナス・コルマク(コルマクの語彙集)』は、キリスト教の修道士の手になる記録でありながら、この女神について踏み込んだ記述を残す。ブリギッドは詩人・予見者(フィリ)が崇めた女神であり、その信仰はきわめて大きく輝かしかった。そして彼女には二人の姉妹がいた——治癒のブリギッドと、鍛冶のブリギッドである。三人ともダグザの娘だという。同じ名の三柱という構成から、三重の女神とみる読み方が生まれた。あるいは「ブリギッド」は個人名というより称号に近いものだったのではないか、とする解釈もある。

アイルランド来寇の書』は彼女を詩人とし、フェアとフェメンという二頭の牡牛、「猪の王」トルク・トリアス、「羊の王」キルブを持つとする。アイルランドで略奪が起これば、これらの家畜が声をあげて知らせた。家畜の守り手としての相である。

マグ・トゥレドの戦い』では、フォモール族の血を引く王ブレスの妻として現れる。息子ルアザーンの死を悼み、彼女は嘆きと歌を織り交ぜたキーニング(哭き歌)を始めたとされる。夜の旅に用いる笛の発明も、同じ箇所で彼女に帰される。

8〜9世紀の法文『センハス・モール』に付された注釈群は「ブリーグの裁定」と呼ばれ、女性の事情に合わせて慣習法を調整したものとされる。これを伝説上の判事センハの妻ブリーグ・ブレハハに帰する点にも、この名が知恵と判断に結びついていたことが表れている。

図像と象徴

古代の図像はない。アイルランドの神々は写本のなかに文字として伝わったのであり、像を残さなかった。したがってブリギッドの視覚像は、もっぱらケルト復興が作り出したものである。ジョン・ダンカンの《ブライドの到来》(1917年)はその代表で、二人の天使に運ばれて島へ渡る少女として彼女を描く。ラファエル前派の様式に島嶼装飾写本の意匠を重ねた画面は、20世紀初頭のスコットランドがケルトの過去をどう見たかを示す資料でもある。

伝承の側で標識となるのは、像ではなく火と編み物である。ギラルドゥス・カンブレンシスは12世紀末、キルデアで19人の修道女が交代で永遠の火を守り続けており、それはブリギッドの時代から絶えたことがないと記した。火は生垣に囲まれ、男が越えれば呪われるという。ウェスタやヘスティアの聖火と同じく、絶やされない火が女性の手に委ねられている。この火が女神の神殿に由来するとみる説があるが、確証はない。

もう一つが「聖ブリギッドの十字」である。藺草や麦藁を四つ組みにして編む四腕の形をとり、インボルクにあたる2月1日に作って家の梁に掲げ、火と災いを防ぐ。井戸に布の切れ端を結んで癒しを願う習俗(クルーティ・ウェル)もこの名と結びついており、シロナコウェンティナといったケルトの治癒女神が泉と結びついていたことと響き合う。

系譜と関係

父はダグザ。夫はブレス、息子はルアザーン。姉妹とされる治癒のブリギッドと鍛冶のブリギッドは、同一の女神の三つの相とも、別個の三姉妹とも読める。

ブリテンの女神ブリガンティアとは名が同源である。プトレマイオスがブリガンテス族をアイルランド南東部にも置いていること、ブリギッドの牡牛の名を負う平原がまさにその一帯にあることを重ねて、両者の連続を説く議論がある。ただし同源であることと同一の神であることは別である。

最も論じられてきたのは、キルデアの聖女ブリギッドとの関係である。聖女の記念日2月1日は、アイルランドの春の初日インボルクにあたる。聖女は治癒者・詩人・鍛冶・家畜・乳製品の守護者とされ、食物を増やし、家畜を与え、天候を左右し、火や温泉と結びつく。『サナス・コルマク』が三人のブリギッドに割り当てた詩と予言・医術・鍛冶は、聖女に付き従う詩人ドゥフタハ、医師アエド・マク・ブリク、鍛冶コンレスの三人と対応する。中世学者パメラ・バーガーは、修道士たちが古い母なる女神の名と機能をキリスト教の聖女に接ぎ木したと論じ、ダーヒ・オホーガンも聖女の奇蹟のうちに習合の痕跡を読み取る。

一方でエルヴァ・ジョンストンはこれに異を唱える。女神の優先を説く議論は、聖女が実在しなかったという前提と、聖女伝が異教の神を人間化したものだという読み、そして女神崇拝のほうが女性にとって力を与えるものだという想定に依存している、というのがその批判である。史料の性質上、どちらが先かを決するのは難しい。

文化的足跡

インボルクは「聖ブリギッドの日」として存続し、近年はアイルランドの公休日にも定められた。藺草の十字と井戸への参詣は今も各地で続いている。名そのものも、中世ラテン語のブリギダを経て、英語のブリジット、フランス語のブリジット、スウェーデン語のビルギッタへと広がった。

現代の異教復興運動では、三重の女神としての相が重んじられる。ここで扱うのは神話と図像の歴史であり、現に営まれる信仰の当否には立ち入らない。1985年、国際天文学連合は金星の地形にブリギッドの名を与えた。現存する宗教の人物名を用いない規則があるため、これは聖女ではなく女神を指す命名である。

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領分・別名

INTERPRETATIO — 同一視・同源
ブリガンティア ケルト神話 同源
ともにケルト祖語 *Brigantī(高き者。brigant- 由来)に遡る同源。古アイルランド語 bríg、サンスクリット bṛhatī(暁の女神ウシャスの添え名)と対応する。ブリガンテス族の分布とブリギッドの牡牛の名を負う平原の位置を重ねて連続を説く議論があるが、同源であることと同一の神であることは別である

親・配偶者・子までを表示(全体はフル系図ページへ)。実線=主要伝承点線=異伝・別系統

収載データなし
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資料

Wikidata
Q255459 — 骨格データの出典
Commons
Brigid — 図像カテゴリ