エラハ
エラサ · エラダ · エラサン
アイルランド神話のフォモール族の王。ブレスの父にあたる。銀の船で海を渡り、黄金の髪と金の衣で現れたと語られ、怪異として描かれる同族のなかで異例の美しい姿をもつ。
解説
概要
エラハ(Elatha、エラサ、エラダとも)は、アイルランド神話のフォモール族の王である。ブレスの父にあたる。
光と輝きに結びつく形象をまとい、太陽との関係を想定する見方がある。「黄金の髪をもつ美しい、ミルトン風の闇の王子」と評されることもある。フォモール族が怪異として描かれるのが常であるなかで、この人物だけは終始美しい姿で語られる。
神話・物語
『侵略の書』が伝えるところでは、エラハはデルバイスの子であり、フォモール族の王であった。トゥアハ・デ・ダナーンの女エリウとのあいだにブレスをもうけている。
その出会いの場面が印象深い。彼は銀と見える大きな船で、凪いだ海を渡ってエリウのもとへ来た。黄金の髪の若者の姿をとり、金の飾りをつけた衣をまとい、首に五つの金の輪を掛けていた。エリウは同族の若者たちの求愛をすべて退けていたが、この男には心を許し、去られたときには泣いたという。
去るに際して、彼は自分の指から指輪を抜いて彼女に与え、その指に合う者にだけ渡せと言い置いた。のちにエリウが指輪を取り出してブレスの指にはめると、ぴたりと合った。
ブレスはヌアザに代わってトゥアハ・デ・ダナーンの王となったが、圧政のために追われる。母とともにフォモールの地へ渡り、指輪を見た王エラハから「お前は我が子だ」と告げられた。何がお前を国と王位から追い出したのかと問われ、ブレスは正直に答える——追い出したのは自分の不正と非情である。民から宝を、装身具を、食物までも取り上げた。自分より前には税など課されたことがなかった、と。
エラハは聞いたうえで援助を断った。正しい統治によって王位を得よ、と諭したのである。ただし同時に、フォモールの大王バロールのもとへ行くようにとも告げた。
第二次マグ・トゥレドの戦いにも加わっている。この戦いにおいては、息子であるダグザの魔法の竪琴ウアフネを守る役を担った。ユーモアと気品を併せ持つ人物として描かれる。
図像と象徴
古い図像はなく、本サイトも主画像を掲げない。19世紀以降の絵画にフォモール族を描いたものはあるが、この人物を名指した作例は知られていない。
属性として語られるのは、銀の船、黄金の髪、金の衣、そして五つの金の首輪である。フォモール族が一般に片目片脚の怪異として描かれるなかで、この造形は際立って異質である。第二次マグ・トゥレドの戦いを、単なる善悪の戦いではなく、旧世代と新世代の交替として読む解釈があるのは、こうした細部にもよる。
系譜と関係
父はデルバイス。エリウとのあいだの子がブレス。それ以外に、母の名を伝えられないままダグザ、オグマ、デルバイスという名の息子、そしてエロス——マナナン・マク・リルの父リルの別名——の父ともされる。
つまりトゥアハ・デ・ダナーンの主だった神々の多くが、フォモールの王を父に持つことになる。オグマの母称がしばしば「エスリウの子」とされることから、これらの子の母はエスニウ、すなわちルーの母だったのではないかとも言われる。エスニウもまたフォモールであるから、そうであれば彼ら全員がフォモールの血を引くことになる。
系譜は混乱しているが、その混乱自体が、二つの種族の戦いが実は世代交代の物語であったことを示しているのかもしれない。
文化的足跡
名の形も一定しない。エラハ、エラサン、エラダ。19世紀のT・W・ロールストンやチャールズ・スクワイア、レディ・グレゴリーはエラサンの形を用いたが、これはエラハの属格「エラハの」であって主格ではない。属格を主格と取り違えるという、アイルランド神話研究にありふれた誤りの一例である。
レディ・グレゴリーは、この名の語義を吟遊詩人の意味での「技芸」あるいは「知識」と説いた。その読みに従えば、エラハとは「技芸の者」を意味することになる。
領分・別名
親・配偶者・子までを表示(全体はフル系図ページへ)。実線=主要伝承/点線=異伝・別系統。