ケルマイト
ケルマト · ケルマド · ミルベール
ダグザの子。ルーの妻ブアハと通じて殺されたが、父の癒しの杖で蘇った。三人の息子マク・クル、マク・ケヒト、マク・グレーネが仇を討ち、のちに共同上王となった。
解説
概要
ケルマイト(Cermait、現代綴りケルマド Cearmaid)は、アイルランド神話のトゥアハ・デ・ダナーンに属する人物である。ダグザの子で、アエドとオェングスの兄弟にあたる。
ルーの妻ブアハと通じたために、ルーの手にかかって殺された。父ダグザは血の涙を流して嘆いたのち、癒しの杖で子を蘇らせている。
添え名はミルベール(Milbél、「蜜の口」)。「戦列の」「見目のすべて美しき」「力ある」といった形容も伝えられる。
神話・物語
殺害と蘇生、そして復讐が、この人物をめぐる筋のすべてである。
ルーの妻ブアハとの密通が露見し、ケルマイトは殺された。ダグザは子の亡骸を伴って東へ旅し、その途上で癒しの杖を用いて蘇らせたという。ダグザの棍棒は、一方の端が一撃で九人を殺し、他方の滑らかな端が死者を蘇らせる。息子を生き返らせたのはこの端である。
三人の息子——マク・クル、マク・ケーフト、マク・グレーネ——は父の死の仇を討った。ルーは足を槍で貫かれ、湖に沈められたと伝えられる。この三人はのちにアイルランドの共同上王となり、ミレー族の来寇を迎えることになる。トゥアハ・デ・ダナーンの最後の王たちである。
『地名譚』に現れる「蜜の口のコナン」がダグザの子とされることから、これをケルマイトと同一人物とみる説がある。コナンはコナル・ケルナハの子フェルドマン(アエド・リンドとも呼ばれる)の槍によって殺された。
図像と象徴
図像は伝わらず、本サイトも主画像を掲げない。
象徴として読めるのは、添え名である。「蜜の口」は雄弁を指す形容であり、口が甘いことと、他人の妻と通じることが、同じ人物の属性として並んでいる。アイルランドの物語において、弁舌に長けた人物はしばしば秩序を乱す側に配される。
殺されて蘇るという経路も見逃せない。父の杖は死者を生き返らせることができる。それでも三人の息子は復讐を遂げる。蘇生が復讐を止めないという点に、この物語の論理がある。血の報いは、被害者が生きているかどうかとは別に発生する。
系譜と関係
父はダグザ。兄弟にアエドとオェングス。子はマク・クル、マク・ケヒト、マク・グレーネの三人。
この三子が共同上王としてアイルランドを統べていたときにミレー族が来寇し、トゥアハ・デ・ダナーンは地下へ退く。ケルマイトの死とルーの死が連鎖した末に、種族の交替が起きるという構成になっている。
殺したルーもまた、ダグザの子である甥にあたる父方の親族を殺したことになる。トゥアハ・デ・ダナーンの内紛が、外からの征服を招く——アイルランドの侵略譚が繰り返し語る型である。
文化的足跡
日本語圏では、この人物はダグザの子として、あるいはルーの死の原因として言及されるにとどまる。
英語圏には奇妙な余波がある。この名は Kermit と英語化されることがあり、アイルランド系の姓カーミットの由来とされてきた。マペットの緑の蛙の名がここに遡るという説がしばしば語られるが、制作者ジム・ヘンソンは幼馴染の名から採ったと述べており、神話との直接のつながりはない。