シャニ
シャナイシュチャラ · シャニーシュヴァラ · サニーシュワラ
土星を司る神で、九曜の一員。行いの結果を過たず与える業の裁定者とされ、その視線は災厄をもたらすと恐れられた。土曜日はこの神の日である。
解説
概要
シャニ(Śani / शनि)は土星を人格化した神で、ナヴァグラハ(九曜)の一員である。名はサンスクリットで「ゆっくり動く者」を意味し、シャナイシュチャラとも呼ばれる。カルマと時と応報を司り、人の思いと言葉と行いに応じて結果を過たず与えるとされる。九曜のうちで最も恐れられる凶星でありながら、正しく祀れば穏やかになり、また精神的な鍛錬をもたらすともされる。ヒンドゥー暦の土曜日シャニヴァーラは、この神の日である。
神話・物語
中世の文献では、スーリヤとチャーヤー(影)の子とされるのが通例である。ただしバララーマとレーヴァティーの子とする伝えもあり、系譜は一様でない。母を通じてヤマの兄弟にあたる。
その視線がもつ破壊力は、いくつもの説話の主題となっている。妻はガンダルヴァ王チトララタの娘であるが、クリシュナへの礼拝に没頭して妻を顧みなかったため、「お前が見つめた者は災厄に遭うがよい」と呪われた。この呪いこそが、彼の恐ろしさの由来とされる。
『ブラフマヴァイヴァルタ・プラーナ』は、ガネーシャが象の頭をもつに至った経緯をこの視線で説明する。パールヴァティーが子の誕生を祝う宴を開いたとき、シャニははじめ招きを断ったが、強く請われて出席した。彼に見つめられたガネーシャの頭はたちまち灰となる。そこでヴィシュヌが象アイラーヴァタの首を持ち帰り、これを据えたという。『シヴァ・プラーナ』は同じ結果をまったく別の筋で語り、首を落としたのはシヴァ自身であるとする。
『パドマ・プラーナ』には、土星がローヒニー宿に入るため十二年の飢饉が起こると占星術師が予言したため、ラーマの父ダシャラタ王が天上へ戦車を駆ってシャニを攻めようとした話がある。シャニは怖れて飢饉を起こさないと約束したという。恐るべき神に人間の王が正面から挑むという構図は、この神をめぐる説話のなかでも異色である。
図像と象徴
黒い肌に青ないし黒の衣をまとい、八頭の馬に牽かれた鉄の車に乗る。あるいはハゲワシを乗騎とし、常に大きなカラスがつき従う。手には弓と矢、斧、三叉戟を執る。文献によっては馬、蛇、水牛に乗るとも記される。北東インドとネパールの仏教文献では、乗騎は一貫して亀である。剣あるいはダンダ(棒)を執って水牛に坐す姿も広く行われた。
『ヤジュル・ヴェーダ』以来の天体観に加え、九曜そのものが西アジア・ヘレニズム・ゾロアスターの占星術を取り込みながら成立した体系である。120年頃、西クシャトラパ王ルドラカルマン1世のもとでヤヴァネーシュヴァラ(ギリシア人の主)が著した『ヤヴァナジャータカ』は、インド占星術を体系化した書としてしばしば挙げられる。青サファイアはこの神に配される石とされ、山羊座と水瓶座を支配する。
系譜と関係
父はスーリヤ、母はチャーヤー。チャーヤーはサンジュニャーが夫の熱に堪えかねて残していった影の分身であり、シャニの黒さと母の名(影)との対応は、この系譜が図像と地続きであることを示す。兄弟にはヤマとヤムナー、異母の兄弟姉妹にはアシュヴィン双神とマヌがいる。バイラヴァの一相カーラ・バイラヴァは、彼の師(グル・ナータ)と位置づけられる。
『ブラフマヴァイヴァルタ・プラーナ』はクリシュナに「惑星のうち我はシャニである」と語らせ、彼をクリシュナの顕れの一つに数える。惑星神が最高神の一相に組み込まれていく過程を示す一節である。
文化的足跡
土曜日にシャニを祀り、見返りを求めずに貧しい者へ施すことが吉とされる。マハーラーシュトラ州のシャニ・シングナープルは特に名高い聖地で、ほかにマディヤ・プラデーシュ、ハリヤーナー、タミル・ナードゥ、カルナータカなどにも寺院がある。南インドではティルナッラールの寺院が知られ、カーシー・ヴィシュヴァナート寺院にも別祠がある。単独の寺院より、各派の寺院に置かれた九曜の一体としての作例のほうが多い。
『スーリヤ・シッダーンタ』や『カンダカーディヤカ』などの天文書は、シャニの公転数や遠日点を数値で記した。写本ごとに値が食い違うのは、これらの書が長く改訂を重ねられたためである。仏教を介して東アジアにも伝わり、宿曜道では鎮星(土曜星)として位置づけられた。
領分・別名
親・配偶者・子までを表示(全体はフル系図ページへ)。実線=主要伝承/点線=異伝・別系統。