アシュヴィン双神
アシュヴィン · アシュヴィニー・クマーラ · ナーサティヤ
ヴェーダの双子神。疲れを知らぬ馬の曳く車で駆け、窮地に陥った者を救う。医術と薄明を領分とし、印欧語族に広く分布する「神なる双子の騎手」の一例である。
解説
概要
アシュヴィン双神(サンスクリット अश्विन्、「馬を持つ者たち」)は、ヴェーダの双子神である。アシュヴィニー・クマーラとも呼ばれ、個々の名はナーサティヤ(「常に真なる者」)とダスラ(「明るく与える者」)という。
医術、健康、癒し、諸学、そして薄明を領分とする。『リグ・ヴェーダ』では、疲れを知らぬ馬の曳く車で駆ける若々しい双子の騎手として描かれ、人々をさまざまな窮地から救い出す守護神として表される。
一般には太陽神スーリヤと妃サンジュニャーの子とされる。叙事詩『マハーバーラタ』では、パーンダヴァの双子ナクラとサハデーヴァがこの双神の子である。
神話・物語
『リグ・ヴェーダ』における言及は398回に及び、五十以上の讃歌がこの双神に捧げられている。ヴェーダの神々のなかでも、インドラ、アグニ、ソーマに次ぐ頻度である。
讃歌が繰り返し語るのは、救うという行為である。聖仙アトリを地の裂け目から引き上げ、水に流された聖仙レバを救い出し、旱に苦しむディールガシュラヴァスの祈りに応えて天から甘い水を降らせ、砂漠で渇いたゴータマのために井戸を掘る。他の神々が力と統治を担うのに対し、この双神は困難に陥った個人のもとへ駆けつける。
婚姻の物語は讃歌1.117に語られる。太陽神スーリヤ=サヴィトリに娘スーリヤーがあり、婿を選ぶために競馬を催した。勝ったのはアシュヴィンであり、二人ともが彼女を娶ったという。
出生についても複数の伝えがある。ヴィヴァスヴァット(スーリヤ)と妃サラニユー(サンジュニャー)が、それぞれ牡馬と牝馬の姿で交わったのちに生まれたというのが最もよく引かれる筋である。ある箇所ではインダス川が母とされ、また暁の女神ウシャスの息子とされることもある。「ディヴォー・ナパーター」——ディヤウスの子ら、あるいは孫ら——と呼ばれる呼称も繰り返し現れる。
『マハーバーラタ』では、クル王パーンドゥの第二妃マードリーが真言によってこの双神を招き、双子のナクラとサハデーヴァを授かった。ヴェーダの双子神が、叙事詩において人間の双子の父になっている。
図像と象徴
本サイトが掲げるのは、ムガル朝期の写本零葉《天上の双子の誕生》である(1585〜90年頃、ラホール、ロサンゼルス郡立美術館蔵)。『ハリヴァンシャ』——『マハーバーラタ』の付編——のペルシア語訳『ラズムナーマ』の付録として制作されたもので、アクバル帝の工房による作である。
図像として独立して表されることは少ない。若い二人の騎手、あるいは車に乗る二人という形が基本である。馬という属性が名そのものであり、他の標を必要としない。
象徴として重要なのは、常に双数で語られるという点である。『リグ・ヴェーダ』において、この二柱は個別の名を持たず、必ず対で呼ばれる。ヴェーダの文献が両者を区別する箇所はごくわずかで、「汝らの一方はスマカの勝利の主として、他方は天の幸ある子として敬われる」(1.181.4)といった句にとどまる。ナーサティヤとダスラという個別の名が定着するのは、後代の『マハーバーラタ』以降である。
薄明を領分とするという点も、この双数性に対応する。夜明けと日暮れ、すなわち一日に二度訪れる同じ時刻が、二柱の神に配されている。
関わる神格・伝承
印欧語族に広く分布する「神なる双子の騎手」の一例である。リトアニアのアシュヴィエニアイ、ラトビアのディエヴァ・デーリ、ギリシアのディオスクーロイ(カストールとポリュデウケース)がこれにあたり、英国のヘンギストとホルサ、ウェールズのブランとマナウィダンを加える説もある。
名の対応は明瞭である。「ディヴォー・ナパーター」(ディヤウスの子ら)はリトアニアの「ディエヴォ・スーネリアイ」(ディエヴァスの息子ら)、ラトビアの「ディエヴァ・デーリ」、ギリシアの「ディオスクーロイ」(ゼウスの子ら)と正確に対応する。天空神の名と、その子である双子という組み合わせが、四つの言語圏で共有されている。
ナーサティヤという添え名は印欧祖語の語根 *nes-(無事に帰る)に遡るとされ、アヴェスターのナーンハイティヤ(不和の魔物)、ギリシアの英雄ネストール、ゴート語の動詞 nasjan(救う、癒す)と同源である。
この双神の名の最古の記録は、ヒッタイト王シュッピルリウマとミタンニ王シャッティワザのあいだで結ばれた前1350年頃の条約に見える。ヴェーダの文献よりも古い、インド外の文書である。
文化的足跡
医神という職掌では、後代のダンヴァンタリがこの双神の後を襲う。ダンヴァンタリがアーユルヴェーダの神として体系化された医学に結びつくのに対し、アシュヴィンが救うのは常に個別の窮地である。
アシュヴィニーはインド占星術の二十七宿の第一宿でもある。天球を巡る星宿の順序が、この双神の名から始まっている。
日本語圏では、ヴェーダの神々といえばインドラやアグニが挙げられ、この双神まで紹介されることは少ない。しかし印欧比較神話学において、ディオスクーロイとの対応は最も確実な例の一つに数えられる。ヴェーダの一柱を通じて、リトアニアの民謡とギリシアの神話が同じ図に収まる。