アイラーヴァタ
Airāvaṇa · アイラーヴァナ · エーラーワン
ヒンドゥー神話の巨大な白象。神々の王インドラの乗騎にして象の王。乳海攪拌の海から生まれ、雨雲とめぐみの雨をもたらす存在として崇められる。
解説
概要
アイラーヴァタ(ऐरावत / Airāvata)は、ヒンドゥー神話に語られる巨大な白象である。神々の王インドラの乗騎(ヴァーハナ)にして象の王であり、あらゆる象の祖ともされる。ヴェーダに名が見え、二大叙事詩や諸プラーナに繰り返し現れて、王権と豊かな雨雲を象徴する聖獣として崇められてきた。
登場する神話
その出自を語る最も名高い物語が乳海攪拌である。神々(デーヴァ)と魔神(アスラ)が不死の霊薬アムリタを求めて乳の海を攪拌したとき、海からは霊薬や女神ラクシュミーとともに、数々の至宝の一つとしてアイラーヴァタが現れた。インドラはこの白象を選んで自らの乗騎とし、天界を駆けたという。長く乳の海に浸かっていたことが、その白さの由来とも伝えられる。
異伝もまた豊かである。ある伝えでは、ブラフマーが卵の殻の半ばに聖なる真言を唱えて幾頭もの象を生み出し、アイラーヴァタがその筆頭となった。『ラーマーヤナ』には、ドゥルヴァーサ仙の花輪をめぐる挿話でアイラーヴァタの振る舞いが乳海攪拌の遠因になったとする筋もある。神々の戦いにおいては、インドラが魔神ヴリトラを討つ戦いなどに従い、スカンダ・プラーナには魔神スラパドマとの激闘で牙を折られる話も残る。単一の正伝に収まらない、層をなす伝承がこの聖獣を形づくっている。
図像と象徴
アイラーヴァタは、真珠よりも白い巨躯として描かれる。四本の牙を備え、一説には多くの牙や複数の鼻を持つとも、かつては翼をもって天翔けたとも語られる。その本質は雨雲との結びつきにある。鼻で天の水を汲み上げて地に雨を降らせるとされ、白い雨雲そのものになぞらえて「雲の象」の名でも呼ばれた。図像の典型は、ヴァジュラ(金剛杵)を執るインドラを背に乗せた姿で、神と聖獣は一対として描かれる。また東方を守る守護象ディッガジャの筆頭として、世界の一方位を支える宇宙論的な役割をも担った。
関係する神格
アイラーヴァタは何よりインドラの聖獣として語られる。母を天界の川イラーヴァティーとする伝えがあり、その名も「水より生じたもの」の意に解される。雲と結びつく雌象アブラムーを配偶とする伝承もあり、いずれも慈雨と豊穣の連想を強めている。こうした物語はヒンドゥー神話の宇宙観のなかに位置づけられる。
文化的足跡
アイラーヴァタは仏教とともに東南アジアへ伝わり、タイでは三つの頭を持つ象エーラーワン(Erawan)として親しまれ、王権と国土の象徴的な存在となった。現代では『女神転生』をはじめとするゲームにも幻獣として登場する。