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セイレーン
PLATE — ΣΕΙΡΉΝ
HELLAS · ギリシア神話
ΣΕΙΡΉΝ

セイレーン

セイレン · セイレーネス · サイレン

Marsyas(CC BY 2.5) CC BY 2.5

歌で船乗りを惑わすギリシア神話の怪物。『オデュッセイア』は姿を描かず、古典期の美術は一貫して女の顔をもつ鳥として表した。上半身が女で下半身が魚という姿は、中世の写本が育てた後代の像である。

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解説

概要

セイレーン(古代ギリシア語: 単数 Σειρήν / Seirḗn、複数 Σειρῆνες)は、抗いがたい歌声で航海者を引き寄せるギリシア神話の怪物である。名の語源は決着しておらず、先ギリシア語起源とする説のほか、σειρά(綱)・εἴρω(縛る)と結びつけて「縛る者」と読む説がある。後者はオデュッセウスが帆柱に縛られてその歌を聴く、あの場面と響き合う。

この幻獣を扱うとき、まず正しておくべきことが一つある。古典期のセイレーンは人魚ではない。 ギリシア人が描いたのは女の顔をもつ鳥であって、魚の尾は千年以上のちに付いたものである。

登場する物語

初出はホメーロス『オデュッセイア』第12歌。キルケーの助言に従い、オデュッセウスは水夫の耳を蜜蝋で塞ぎ、自らは帆柱に縛らせた。歌を聴いた彼は顔をしかめて解けと合図するが、水夫はかえって縄を締める。ホメーロスはセイレーンを二人とし、名も姿も語らない。この沈黙が、後世に自由を与えた。

系譜は割れている。ソポクレースの断片は父をポルキュースとするが、名が挙がるときはたいてい河神アケローオスの娘たちとされ、母はムーサテルプシコラーメルポメネーカリオペー、あるいはカリュドーン王ポルターオーンの娘ステロペーと、資料ごとに変わる。エウリーピデース『ヘレネー』は「大地の娘たち」と呼び、エピメニデースはオーケアノスとゲーの子とした。人数も定まらず、ホメーロスの二人に対し三人説、ヒュギーヌスの四人説があり、名の異同はさらに多い。

エピソードも一致しない。オウィディウスによれば、セイレーンはペルセポネーの遊び仲間で、攫われた彼女を捜すためにデーメーテールが翼を与えた。ところがヒュギーヌスでは、攫われるのを止めなかった罰としてデーメーテールが翼を与えて呪ったことになる。同じ翼が、恩寵にも罰にもなる。 ヘーラーにそそのかされてムーサたちと歌を競い、敗れて羽根をむしられ、その羽根でムーサが冠を編んだという話もある。ビュザンティオンのステパノスは、敗れたセイレーンが羽根を捨てて白くなり海へ身を投げたと伝え、それゆえ近くの町はアプテラ(翼なき)、島々はレウカイ(白きもの)と呼ばれたという。『アルゴナウティカ』では、オルペウスが竪琴でその歌を掻き消し、聴き入って海へ飛び込んだブーテースだけをアプロディーテーが救い上げた。

図像と象徴

主画像はアテネ国立考古博物館の墓標像で、ケラメイコスの墓地から出土した前4世紀のペンテリコン大理石である。鳥の胴に女の頭と腕をつけ、翼を畳み、亀甲の竪琴を抱えて死者を悼む。撥を持っていたはずの右手は失われている。船乗りを食い殺す怪物が、墓の上で静かに弾いている——この落差がセイレーン理解の鍵になる。

古典期の造形は一貫している。前7世紀にはすでに女の頭をもつ鳥として定着し、初期には羽毛と鱗のある脚をもつ大きな鳥、のちに上半身が人で脚が鳥という形へ移る。竪琴・キタラー・アウロスを持つ姿が好まれた。エジプトのバー鳥(人頭の鳥として描かれる魂)の影響を指摘する声もある。特筆すべきは、初期には男のセイレーンも造形されていたことで、前5世紀頃に美術から姿を消す。

魚の尾はどこから来たのか。古典期にも人魚めいた作例は散発的にあるが、文献での初出は8世紀初頭の『怪物誌』で、鱗ある魚の尾をもつ乙女と記す。決定打は『フィシオロゴス』と、そこから育った動物寓意譚である。9世紀のベルン本『フィシオロゴス』はすでに半人半魚に描き、以後の写本は翼・鉤爪と魚尾を混ぜた折衷像を量産した。今日「セイレーン=人魚」と思われているのは、この写本群の仕事である。

関係する神格・退治した英雄

殺された記録はない。ただし、歌を聴いて生きて通り過ぎた者がいれば死ぬ定めだったとする後代の説があり、オデュッセウスの通過ののち海へ身を投げたと語られる。

セイレーンは「冥界のムーサ」とも呼ばれた。墓標に据えられ、死者を悼み、その歌はつねにペルセポネーを呼ぶ。ジェーン・エレン・ハリソンは、過去と未来を知る点でスフィンクスと通じる予言的な存在だと述べている。このプシュコポンポス的な性格こそ、キルケーが語った「腐りゆく骸の山に囲まれた花の野」の不気味さの源である。骸が朽ちるままだということは、食われていないということでもある。

文化的足跡

ヒエロニュムスはウルガタ訳で、イザヤ書のヘブライ語 tannīm(山犬)をセイレーンと訳した。アレクサンドリアのクレメンスとアンブロシウスはこの怪物を「快楽」の寓意として説き、イシドールス『語源誌』は、実は旅人を破産させる娼婦だったのだと合理化してみせる。愛は飛び、傷つけるから翼と爪があるのだ、と。歌に抗えないという主題は現代英語の siren song に残り、ゲームや漫画にも繰り返し登場するが、そこに描かれるのはたいてい魚尾のほうである。

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領分・別名

親・配偶者・子までを表示(全体はフル系図ページへ)。実線=主要伝承点線=異伝・別系統

アケローオス
CREATURE
ΠΑΡΘΕΝΌΠΗ
パルテノペー
兄弟姉妹
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セイレーン
ギリシア神話
アケローオス
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収載データなし
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資料

Wikidata
Q150986 — 骨格データの出典
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