ヒュペリーオーン
ヒュペリオン · ヒュペリオーン · ハイペリオン
ウーラノスとガイアの子であるティーターン。名は「高みを行く者」を意味し、テイアーとのあいだに太陽・月・暁の三柱をもうけた光の父である。
解説
概要
ヒュペリーオーン(Ὑπερίων / Hyperion)は、ウーラノスとガイアの子で、ティーターン神族の一柱である。名はギリシア語の前置詞ヒュペル(上に)に由来し、「上を行く者」と解される。妹テイアーを妻とし、太陽ヘーリオス・月セレーネー・暁エーオースの父となった。ティーターンの多くがそうであるように固有の物語も職能も伝わらず、天の三光に父を与えるために置かれた神格という性格が強い。
神話・物語
ヘーシオドス『神統記』では、ウーラノスがガイアの生んだ子らを閉じ込め、やがてクロノスによって斃されるという世代交代の物語のなかに数えられる。アポロドーロスは、ガイアに説かれて父を襲ったのは「オーケアノスを除く」六柱のティーターンだったと伝えるので、ヒュペリーオーンもこれに加わったことになる。その後、妹テイアーとのあいだに天の三光をもうけた。
この神をめぐる最大の問題は、子ヘーリオスとの関係である。ホメーロス『オデュッセイア』、ヘーシオドス『神統記』、『ホメーロス風讃歌』の「デーメーテール讃歌」では、ヒュペリーオーンはヘーリオスの父とされる。ところが『イーリアス』や『オデュッセイア』の他の箇所では、太陽神そのものが「ヘーリオス・ヒュペリーオーン」と呼ばれ、さらに単に「ヒュペリーオーン」とだけ呼ばれることもある。この場合の語は父称とも添え名とも取れる。後代の資料では両者は明確に父と子に分かれるが、そもそもヒュペリーオーンはヘーリオスの別名にすぎず、のちに切り分けられて父の座に据えられたのではないか、という見方はここに根拠を持つ。
ミュケーナイ時代の線文字B文書にも痕跡が疑われている。クノッソス出土の KN E 842 に ]pe-rjo-[ という破損した形が読まれ、これを [u]-pe-rjo-[ne](ヒュペリーオーン)と補う説がある。ただし [a]-pe-rjo-[ne]、すなわちアポローンと読む説もあり、決着していない。
シケリアのディオドーロスは、例によって合理化した説明を与える(エウヘメリズム)。ヒュペリーオーンとは、太陽と月と諸星の運行、そしてそれらが季節を生む仕組みを、精励と観察によって初めて理解し人々に伝えた人物であり、いわばそれらについての考察を生み出したがゆえに「これらの父」と呼ばれたのだ、という。同じディオドーロスの別の異伝では、妹バシレイアと結ばれてヘーリオスとセレーネーをもうけたのち、王権の独占を恐れた兄弟たちに殺される。妻をアイトラーとする伝えもあるが、これはテイアーの別名とみられる。
図像と象徴
名を明示した古代の作例は知られていない。太陽の図像はすべて子ヘーリオスが引き受けており、放射冠、四頭立ての車、東の海から昇る構図といった標識はいずれも子のものである。父の側には何も残らなかった。銘によって多くの神名が確認できるペルガモンの大祭壇の巨人戦争浮彫にも、この神は見いだされていない。図像を持たないこと自体が、独立した崇拝を受けなかったことの反映である。したがって本項では主画像を置いていない。
系譜と関係
父ウーラノス、母ガイア。同胞はオーケアノス、コイオス、クレイオス、イーアペトス、クロノス、テイアー、レアー、テミス、ムネーモシュネー、ポイベー、テーテュース。妻はテイアー。子はヘーリオス、セレーネー、エーオース。孫の世代には、ヘーリオスの娘キルケーやパーシパエー、エーオースの子である四方の風がいる。ティーターノマキアーでの動向は原典に記されず、タルタロスへ落とされたかどうかも明示されない。
文化的足跡
土星の第七衛星ヒペリオンにその名が与えられている。ジョン・キーツの未完の叙事詩『ハイペリオン』は、ティーターンの没落とアポローンの台頭を主題とし、旧世代の神々の敗北を美と芸術の交代として描いた。カリフォルニアに立つ世界一高いセコイアの木にも、この名が付けられている。
領分・別名
親・配偶者・子までを表示(全体はフル系図ページへ)。実線=主要伝承/点線=異伝・別系統。