レウキッピデス
ヒーラエイラ · ポイベー(レウキッポスの娘) · Leukippides
メッセーネー王レウキッポスの娘ヒーラエイラとポイベーの姉妹。許婚がありながらディオスクーロイにさらわれ、双子の反目の発端となった。
解説
概要
レウキッピデス(Λευκιππίδες / Leucippides)は、メッセーネー王レウキッポスの娘、ヒーラエイラとポイベーの姉妹である。名は「レウキッポスの娘たち」を意味し、レウキッポスは「白い馬」と解される。従兄弟のイーダースとリュンケウスの許婚でありながらディオスクーロイにさらわれ、二組の兄弟の反目の発端となった。
なお、姉妹の一人ポイベーは、ティーターンの女神ポイベーとは別人である。
登場する物語
カストールとポリュデウケースは、この姉妹を望んだ。二人はすでにイーダースとリュンケウスと婚約していたが、双子は姉妹をさらってスパルタへ連れ帰り、それぞれ子をもうけた。ポイベーはポリュデウケースにムネーシレオースを、ヒーラエイラはカストールにアノゴーンを産んだと伝えられる。
この略奪から、テュンダレオースの子らとアパレウスの子らの争いが始まる。四人はのちにアルカディアで牛を略奪して仲違いし、最後には待ち伏せと殺し合いに至った。カストールが討たれ、リュンケウスが殺され、イーダースがゼウスの雷に斃されて、四人のうち三人が死ぬ。婚約の破棄が、一族の男たちをほとんど絶やす結果になったことになる。
スパルタでは、この姉妹は祭祀の対象であった。パウサニアースは、レウキッピデスに仕える巫女がいて、彼女たち自身も「レウキッピデス」と呼ばれたと記す。神殿には二人の像が置かれ、片方の顔だけは巫女の一人が新しく作り替えたとも伝えられる。略奪された娘が神として祀られるという、ギリシアの祭祀にしばしば見られる構造がここにもある。
図像と象徴
古代美術における略奪の場面は、この姉妹の名を確かめられる数少ない作例を含んでいる。本項に掲げたのは、前410年頃のアッティカ赤絵式ヒュドリア(メイディアスの絵師、大英博物館 E224)で、肩部に戦車を駆るディオスクーロイが姉妹をさらう場面が描かれる。中央には女神の像が立ち、その周囲で暴力が行われている。
注目すべきは銘である。この壺は登場人物に名を書き添えているが、そこに読めるのはエレラ(ELERA)とエリピュレー(ERIPHYLE)であって、文献の伝えるヒーラエイラとポイベーではない。同じ場面が描かれながら、姉妹の名が別に伝わっていたことになる。アッティカの壺絵の銘は、文献とは異なる伝承の系統を保存していることがあり、これはその一例として引かれる。
祭壇や女神像を画面に配することで、この場面はしばしば婚礼の暗喩として読まれてきた。略奪婚をそのまま描いたのか、婚礼の儀礼を神話に託したのかは決めがたい。
関係する神格・退治した英雄
父レウキッポス、伯父にテュンダレオースとアパレウス。許婚はイーダースとリュンケウス、さらった相手はカストールとポリュデウケース。母をピロデーケーとする伝えがある。ディオスクーロイの物語のなかで、この姉妹は語る場面をほとんど与えられないまま、破局の引き金としてのみ置かれている。
文化的足跡
ルーベンス《レウキッポスの娘たちの略奪》(1618年頃、アルテ・ピナコテーク)は、この主題の最も名高い作品である。二頭の馬と四人の身体が渦を巻く構図は、バロック絵画の躍動を代表するものとして繰り返し論じられてきた。ただしそこで描かれるのは、ギリシアの壺絵が守っていた祭儀的な文脈ではなく、力そのものである。