レーダー
レダ · Lēdā · Leda
スパルタ王テュンダレオースの妃。白鳥の姿のゼウスに交わって卵を産み、ヘレネーとディオスクーロイの母となった。
解説
概要
レーダー(Λήδα / Leda)は、アイトーリア王テスティオスの娘で、スパルタ王テュンダレオースの妃である。白鳥に姿を変えたゼウスに交わって卵を産み、ヘレネーとディオスクーロイの母となった。
トロイア戦争の遠因となる血筋がここから始まる。もっとも、この女性自身が語られる場面はきわめて少ない。物語のうえでの役は、産むことに尽きる。
神話・物語
ゼウスは白鳥の姿でレーダーに近づいた。鷲に追われるふりをして懐へ飛び込んだとも伝えられる。この交わりによってレーダーは卵を産み、そこからヘレネーが生まれた。ディオスクーロイ——カストールとポリュデウケース——が同じ卵から出たとするものと、別の卵から出たとするものがある。同じ夜にテュンダレオースとも交わったため、生まれた子のうちゼウスの子は不死、テュンダレオースの子は死すべき者になったと説明される。一般にはヘレネーとポリュデウケースがゼウスの子、カストールとクリュタイムネーストラーがテュンダレオースの子とされるが、誰が誰の子かは伝えによって入れ替わる。
まったく別系統の伝えもある。ヘレネーの母は復讐の女神ネメシスであり、やはり白鳥の姿のゼウスに孕まされて卵を産んだ、というものである。羊飼いがその卵を見つけてレーダーに預け、彼女は孵るまで胸に抱いて温め、生まれた子を自らの娘として育てた。この版では、レーダーは産む者ではなく育てる者になる。母が二人立てられていること自体、ヘレネーの出生が古くから説明を要する問題だったことを示している。
なお、レーダーの名を小アジア系の「女主人」を意味する語に遡らせ、本来は大地の女神でレートーと同一の存在だったとみる説がある。近代の再構成であり、古代の資料が支えるものではない。
図像と象徴
古代美術における「レーダーと白鳥」は、ヘレニズム期以降に定型化した。前4世紀のティモテオスの作に遡るとされる立像の型——衣を持ち上げて白鳥を庇う姿——が、ローマ期に多くの模刻を生んだ。本項に掲げたのはクノッソス出土の大理石浮彫(後1世紀から2世紀、イラクリオン考古学博物館)である。
もう一つの型は卵の場面である。前420年から前400年頃のアッティカ赤絵式クラーテール(カドモスの絵師、ウィーン美術史美術館)では、笏を執ったテュンダレオースの前で、祭壇に置かれた卵を驚いて見つめるレーダーが描かれ、傍らの柱のもとに双子が控えている。神話の結果と原因が一枚の画面に同居している構図である。
近世以降、「レーダと白鳥」は西洋美術で最も繰り返された主題の一つとなった。レオナルドとミケランジェロの原作はいずれも失われ、模写によってのみ知られる。イェイツの詩「レダと白鳥」(1923年)は、この一瞬の暴力からトロイアの陥落までを一続きに見る読みを提示した。
系譜と関係
父テスティオス、夫テュンダレオース。子はヘレネー、クリュタイムネーストラー、カストール、ポリュデウケース、およびティーマンドラー、ポイベー、ピューロノエー。姉妹にアルタイアーがおり、メレアグロスは甥にあたる。カリュドーンの王家とスパルタの王家が、この姉妹を通じてつながっている。
文化的足跡
木星の第十三衛星レダ、および小惑星帯の38番小惑星レダにその名が与えられている。はくちょう座は、ゼウスがヘレネーの誕生を記念して天に置いたものだとする説明が古代からある。