オーケアノス
オケアノス
ギリシア神話のティタン神族の長子。世界を取り巻いて流れる大河オーケアノスの神格で、あらゆる河と泉の水源とされる。争いを好まず、ティタンの戦いにも与しなかった。
解説
概要
オーケアノス(Ὠκεανός)は、ギリシア神話のティーターン神族に属する神であり、世界を取り巻いて流れる巨大な河「オーケアノス」そのものの神格である。天空神ウーラノスと大地の女神ガイアの子で、ヘシオドス『神統記』ではティーターンの長子とされる。あらゆる河・泉・海の水源をなす、水の始原の神である。
神話・物語
『神統記』によれば、オーケアノスは妹テーテュースを妻とし、三千の河の神(ポタモイ)と三千の水の精(オーケアニス)を生んだ。娘には、ゼウスの最初の妻メーティスや、冥界を流れる川ステュクスがいる。
彼を最も特徴づけるのは、争いから身を引く神という点である。父ウーラノスをクロノスらが襲ったとき、ヘシオドスは誰が加担したかを明示しないが、アポロドーロスは「オーケアノスを除く全ティーターンが加担した」と伝え、オルフェウス教の詩(プロクロスの引用)は、加担すべきか思い悩んだ末に彼が手を引いたと語る。続くティタノマキアでも中立を保ち、幼い姪ヘーラーを匿い育てたとされる(ホメーロス『イーリアス』)。それゆえ敗れたティーターンのようにタルタロスへ落とされることはなかった。アイスキュロス『縛られたプロメーテウス』では、翼ある獣に乗って現れ、プロメーテウスにゼウスへの恭順を説く老神として描かれる。
図像と象徴
古典期の壺絵では、オーケアノスは魚の下半身をもち、片手に魚を、片手に蛇を握る姿で表された(前580年頃のソフィロスのディノス、大英博物館)。魚は豊穣を、蛇は予言を象徴するという。ヘレニズム以降、地理知識の拡大とともに「世界を巡る淡水の大河」という観念は薄れ、彼は大洋そのものの神へと読み替えられていく。ローマのモザイク——アンティオキアやゼウグマの名高い作例——では、長い髭をたくわえ、額から蟹の鋏(時に牡牛の角)を生やした荘厳な海神として、妻テーテュースと並んで描かれた。舵を執り、船を抱える図もある。ペルガモンの大祭壇のギガントマキア浮彫にも、銘とともにその姿が認められる。
系譜と関係
父ウーラノス、母ガイア。妻は妹テーテュース。二人が生んだ無数の河神と水の精を通じて、オーケアノスは世界のあらゆる水の源に連なる。同じ水の神でも、原初の海ポントスや、後代にオリュンポスで海を治めるポセイドーンとは系統を異にする。地理の拡大にともない、地中海を統べるポセイドーンに対し、オーケアノスは未知の大西洋(外洋)を象徴する神と見なされるようになった。オルフェウス教では、オーケアノスとテーテュースをティーターンに先立つ最初の夫婦とする異伝もある。
文化的足跡
「大洋(ocean)」の語は、この神の名に発する。争いを避け、世界の縁で静かに流れ続ける神という像は、後世に「万物を潤す源」の寓意として愛された。ローマのトレヴィの泉(1762年完成)は中央にオーケアノス(大洋)の像を据え、その堂々たる造形が噴水を名高い名所たらしめている。
領分・別名
親・配偶者・子までを表示(全体はフル系図ページへ)。実線=主要伝承/点線=異伝・別系統。