セレーネー
セレネ · ルーナ(ローマ) · メーネー
ギリシア神話で月そのものを体現する女神。ヘーシオドスではヒュペリーオーンとテイアーの娘で、ヘーリオス、エーオースの姉妹。二頭の馬の車で夜空を渡る。眠り続ける若者エンデュミオーンへの愛で知られ、後代にはアルテミスと同一視された。
解説
概要
セレーネーは、ギリシア神話で月そのものを体現する月の女神である。ヘーシオドスではティーターンの子で、太陽神ヘーリオス、暁の女神エーオースの姉妹にあたる。車を駆って夜空を渡る姿で思い描かれた。
神話・物語
ヘーシオドス『神統記』では、ティーターンのヒュペリーオーンとテイアーの娘とされる。異伝は多く、『ホメーロス風讃歌(ヘルメース讃歌)』ではパラースの娘、エウリーピデースではヘーリオスの娘とされる。
最もよく知られるのは、美しい若者エンデュミオーンへの愛である。アポロニオス『アルゴナウティカ』は、ラトモス山の洞窟にエンデュミオーンを訪ねるセレーネーに触れる。アポロドーロスによれば、月がその美しさゆえに彼に恋し、ゼウスはエンデュミオーンに望むものを選ばせた。彼は不死と不老のまま、永遠に眠ることを選んだ。キケローは、眠る彼に口づけするためにセレーネーが眠らせたのだと述べる。パウサニアースは、二人のあいだに五十人の娘が生まれたと伝える。

ほかに、牧神パーンが雪のように白い羊毛を贈って彼女を誘った話(ウェルギリウス)がある。『ホメーロス風讃歌(セレーネー讃歌)』によれば、ゼウスとのあいだに娘パンディアをもうけた。アルクマンは露の女神エルサを二人の娘とする。
信仰
セレーネーへの崇拝は限られ、アルテミスやヘカテーの祭祀と結びついていた。ペルガモンのデーメーテールの聖域に祭壇があり、ラコニアのタラマイ近くの神託所では、パーシパエーがセレーネーの呼び名とされた。アテナイでは酒を用いない供物を受け、月の形をした「セレーネー」という菓子が捧げられた。
図像と象徴
最も古い作例は、前5世紀初めのブリュゴスの画家の赤絵杯で、翼のある二頭の馬が牽く車を駆る。車を牽くのはふつう二頭の馬で、のちには牛とされることもある。持物は三日月、角、光輪で、ヘレニズム期からは松明も持つ。パルテノン神殿の東破風では、右端で海へ沈むセレーネーが、左端で昇るヘーリオスと対をなす。ローマの石棺では、ふくらむヴェールを三日月の形に掲げ、眠るエンデュミオーンのもとへ車から降り立つ姿が繰り返し刻まれた。


系譜と関係
ヘーシオドスでは、父はヒュペリーオーン、母はテイアー、兄弟姉妹にヘーリオスとエーオースがある。古典期以後、ヘーリオスがアポローンと重ねられたように、セレーネーはアルテミスと同一視された。セレーネー、アルテミス、ヘカテーはいずれも月の女神とみなされたが、月そのものを体現するのはセレーネーだけであった。ローマではルーナと同一視される。
文化的足跡
ベルセリウスは、新たに見つけた元素が地球(テルース)にちなむテルルに似ていることから、月の女神の名をとってセレン(セレニウム)と名づけた。
領分・別名
親・配偶者・子までを表示(全体はフル系図ページへ)。実線=主要伝承/点線=異伝・別系統。