テオニム THEONYM · 世界神話アーカイブ 神格を検索
ウェスタ
PLATE — VESTA
ROMA · ローマ神話
VESTA

ウェスタ

ヴェスタ · ベスタ · ウェースタ

Classical Numismatic Group CC BY-SA 2.5

ローマの炉と家庭を司る処女神。神像ではなく神殿に燃え続ける火として祀られ、ウェスタの巫女たちが国家の火を守った。ギリシアのヘスティアーと同一視される。

01

解説

概要

ウェスタ(Vesta)は、ローマの炉と家庭を司る処女神である。主要十二神ディイ・コンセンテースの一柱で、サートゥルヌスとオプスの娘、ユーピテルユーノー・ネプトゥーヌス・ケレースの姉妹にあたる。

ローマの神々のなかでも際立って、人の姿で表されることが少ない。彼女はフォルム・ロマーヌムの神殿に燃え続ける火そのものとして在り、神殿の内陣に神像は置かれなかった。信仰の中心は像ではなく、絶やしてはならない一つの火であった。

神話・物語

神話が乏しい。物語の代わりにあるのは制度である。ローマの伝統は、この信仰がアエネーアース一行の最初の定住地ラウィーニウムに始まり、アルバ・ロンガを経てローマへ移されたと語る。高位の公職に就いた政務官がラウィーニウムへ赴き、ウェスタと国家の家神ペナーテースに犠牲を捧げた慣行が、その記憶を伝えている。詩人たちは彼女をウェスタ・イーリアカ(トロイアのウェスタ)と呼んだ。

家の炉の信仰が国家の祭祀へ組み替えられたのは、ロームルスの代とも、ヌマ・ポンピリウスの代とも伝えられる。多くの資料は後者を採る。

わずかに残る物語も、聖なる炉の火のなかに現れる男根の幻という奇怪な形をとる。この幻によって処女の巫女が身ごもったとされ、ローマの建国者ロームルスとレムス、そして善王セルウィウス・トゥッリウスの出生がこの型で語られた。ロームルスとレムスの母レア・シルウィアはアルバ・ロンガのウェスタの巫女であり、マールスによって身ごもったとも伝えられる。処女の火から王が生まれるという逆説が、この神をめぐる物語のほとんどすべてである。

オウィディウス『祭暦』は別の一話を伝える。ウェスタリア祭の夜、酔ったプリアーポスが眠る女神に忍び寄ったところ、ロバがいなないて目を覚まさせた。ロバがウェスタの聖獣とされ、祭のあいだ花で飾られて休息を与えられるのは、この話によるという。

図像と象徴

人の姿での表現は少なく、彼女を最もよく伝えるのは貨幣である。共和政末期から帝政期にかけて、ウェスタ神殿を刻んだ銀貨が繰り返し発行された。ネロのデーナーリウス(後65〜66年頃)は、六本の柱をもつ神殿のなかに座り、献酒皿パテラと笏を持つ女神を刻み、VESTA の銘を添える。神殿と女神を一つの面に収めるこの構図が、帝政期の定型となった。

彫像もあるが、ヘスティアーの図像との区別は難しい。頭を布で覆い、長衣をまとって直立する女性像が一般的で、持物は松明、パテラ、笏である。ヴェールは祭祀に臨む者の徴であり、神でありながら祭司でもあるという性格をそのまま示している。

家庭のなかの姿は壁画に残る。ポンペイの家のラーラーリウム(家神を祀る小祠)に描かれた壁画は、座す女神の傍らにロバを配し、家の火の守り手として彼女を表す。国家の火と家の炉が同じ神の二つの面であったことを、この小さな絵が伝えている。

神殿そのものも図像として働いた。フォルム・ロマーヌムのウェスタ神殿は円形で、屋根に煙出しの開口をもつ。方形の神殿が並ぶなかで円い建物は際立ち、その形自体がローマ最古の小屋の記憶を留めるものと解されてきた。

系譜と関係

父はサートゥルヌス、母はオプス。兄弟姉妹にユピテル、ユーノー、ネプトゥーヌス、プルートー、ケレース。処女神であり、子はない。

ギリシアのヘスティアーと同一視されるが、重心は異なる。ヘスティアーが家庭の炉を司り、神話も公的祭祀も控えめであるのに対し、ウェスタは国家の永遠の火とウェスタの巫女の制度を伴う国家祭祀の中核であった。火が消えることはローマそのものの危機を意味する。同一視はインテルプレタティオ・ロマーナの産物であり、二柱を同じ神として扱うことはできない。

語源に定説はない。オウィディウスは vi stando(力によって立つ)から、キケローはギリシア語ヘスティアーからの派生を挙げるが、いずれも民間語源の域を出ない。ジョルジュ・デュメジルは印欧祖語で「燃える」を意味する語根に遡らせた。ただしヘスティアーとの語源上のつながりは、今日では否定的に見られている。

文化的足跡

ウェスタ信仰は、ローマの伝統祭祀のなかで最も長く生き延びたものの一つである。379年頃にグラティアーヌス帝が最高神祇官の職を辞し、382年には巫女たちの館を没収して公費を打ち切った。391年、テオドシウス1世が神殿を閉じ、火は消される。千年以上絶やされなかったとされる火の終焉は、そのまま古代ローマの宗教の終わりを示す出来事として語られてきた。

天文学では、1807年に発見された小惑星帯の大型天体 (4) ベスタがこの名を負う。NASA の探査機ドーンが2011年から翌年にかけて周回観測を行い、内部が分化した原始惑星であることを確かめた。

建築では、円形のウェスタ神殿が記念のあずまやの原型として繰り返し模倣された。イギリスの風景式庭園やヨーロッパ各地の公園に立つ円形柱廊の小神殿は、その多くがこの建物を範としている。火を絶やさぬ守り手という観念も、無名戦士の墓に灯される永遠の火などの近代の慣行に間接的な影を落としている。

02

領分・別名

INTERPRETATIO — 同一視・同源
ヘスティアー ギリシア神話 同一視
インテルプレタティオ・ロマーナ。ローマの炉の女神ウェスタと同一視された。ただしウェスタは国家の永遠の火とウェスタリス(巫女)の祭祀を伴う国家的信仰であり、ヘスティアーの家庭的性格とは重心が異なる。

親・配偶者・子までを表示(全体はフル系図ページへ)。実線=主要伝承点線=異伝・別系統

フル系図ページを開く →
04

資料

Wikidata
Q178710 — 骨格データの出典
Commons
Vesta (mythology) — 図像カテゴリ