ヤーヌス
ヤヌス · ジェイナス
始まりと門、移り変わりを司るローマの神。過去と未来を見る二つの顔をもつ。ローマの神の多くと違い、ギリシアに対応する神をもたない土着の神格である。
解説
概要
ヤーヌス(Iānus / Janus)は、始まりと門、移り変わりを司るローマの神である。前を向く顔と後ろを向く顔——過去と未来を同時に見わたす二つの顔をもつ姿で表される。ローマの神々の多くがギリシアの神に対応づけられるなかで、ヤーヌスはそれをもたない、ローマ土着の稀有な神格として知られる。
神話・物語
ヤーヌスの名は、ラテン語で「扉」を意味するイアーヌア(ianua)に由来する。扉が出口であると同時に入口であるように、この神はあらゆる境と移り変わり——年や月や日の変わり目、戦と平和、生と死のあいだ——をつかさどる。
その特色は、恋や戦いを語るような物語をほとんどもたないことにある。かわりにヤーヌスは、祭祀の構造そのもののなかに重い位置を占めた。ローマでは、どの神への祈りや供犠であっても、まずヤーヌスの名が最初に呼ばれた。最高神ユーピテルでさえ、その次に置かれたのである。あらゆる始まりを司る神として、これはふさわしいことであった。エウヘメロス風の伝承では、天を追われたサートゥルヌスをラティウムに迎えた古の王としても語られる。
図像と象徴
ヤーヌスは、頭の後ろで二つの顔が背き合う「ヤーヌス・ビフロンス(二面のヤーヌス)」の姿で表され、まれに四つの顔をもつ像もある。バチカンに伝わる二面の胸像は、その典型的な造形を伝える。共和政期の青銅貨には、一方の面にこの二面の頭が、他方の面に船首が刻まれた。ローマの広場(フォルム)には「ヤーヌス神殿(ヤーヌス・ゲミヌス)」が建ち、その青銅の扉は戦のあいだ開かれ、平和のあいだ閉ざされた。ローマは戦の絶えぬ国であったから、その扉が閉じられたことは、歴史を通じてもわずかであったと伝えられる。
系譜と関係
ヤーヌスは、ギリシアをはじめ他の神話に対応する神をもたない点で際立つ。ユーピテルがゼウス、マールスがアレースに重ねられたのに対し、ヤーヌスはローマ(あるいはイタリア)固有の神としてありつづけた。エトルリアの二面の門神クルサンスとの近さが指摘される程度である。あらゆる祭儀の冒頭に呼ばれるその位置は、彼を神々のなかでも独特の存在にしている。
文化的足跡
一年の扉である最初の月、1月(ラテン語でイアーヌアーリウス)は、この神の名に由来する。門番を意味する英語のジャニター(janitor)も同根である。過去と未来をひとつの頭で見つめるその姿は、年の変わり目や人生の岐路を象徴する意匠として、今日なお広く用いられている。
領分・別名
親・配偶者・子までを表示(全体はフル系図ページへ)。実線=主要伝承/点線=異伝・別系統。