サートゥルヌス
サトゥルヌス · サターン
ローマ神話の農耕神。種まきと収穫を司り、その治世は満ち足りた黄金時代とされた。国庫を納めた神殿と、無礼講の祭サートゥルナーリアで知られる。ギリシアのクロノスと同一視された。
解説
概要
ローマ神話の古い農耕神。種まき(satus)と収穫を司り、その治世はいっさいの争いも労苦もない黄金時代であったと伝えられる。ローマ広場に立つ神殿は国家の金庫(アエラリウム)を兼ね、無礼講で知られる冬の大祭サートゥルナーリアの主神でもあった。のちにギリシアのティーターンクロノスと同一視されたが(インテルプレタティオ・ロマーナ)、農耕と祭祀に根ざしたローマ固有の性格は、それ以前から確かに存在した。
神話・物語
サートゥルヌスをめぐる物語は、ローマ固有の層と、ギリシアから採り入れた層とが二重になっている。ローマ独自の伝えでは、天の座を追われたサートゥルヌスがイタリアのラティウムに落ち延び、ヤーヌスに迎えられて土地の人々に農耕と文明の術を授けた。その治世こそが黄金時代であり、人は法も戦も知らず、大地は労せずして実りをもたらしたという。一方、ギリシアのクロノス神話との習合によって、わが子に王座を奪われることを恐れて子らを呑み込み、末子ユーピテルによって退けられる、という筋も重ねられた。子を呑む酷薄な相はこのギリシア由来の要素であり、ローマ本来のサートゥルヌスは、むしろ実りと解放をもたらす穏やかな王の性格が強い。両者を一つの神として平板に語ると、この二層の重なりが見えなくなる。
図像と象徴
図像では、頭に布を被り(覆面)、片手に鎌または剪定鉤(ファルクス)を握る老いた姿で表される。この鎌はローマ期には死の徴ではなく、あくまで収穫の道具であった。神殿の祭祀像は、一年のあいだ足を羊毛の紐で縛られており、その束縛はサートゥルナーリアのあいだだけ解かれた。束縛を解く所作は、身分の上下が逆転し奴隷も自由に振る舞うこの祭の「解放」の主題と響き合う。覆面については、素性を隠してラティウムに落ち延びた神という伝えや、その本性が古く定かでないことの徴とする解釈が、古来語られてきた。
系譜と関係
ローマの系譜では、天空神カエルスと大地の女神テルスの子とされ、配偶神は豊穣の女神オプス、その子にユーピテル、ネプトゥーヌス、ケレースらがある。エトルリアの神サトレとの関わりも指摘される。クロノスとの同一視は、とりわけローマがギリシア世界を併合したのちに深まったが、暦のうえでの祭日や国庫との結びつき、覆面の祭祀像といった要素は、ギリシアのクロニア祭とは別に、ローマに固有のものである。
文化的足跡
サートゥルナーリアの無礼講と贈り物の習わしは、後世の冬の祝祭にも影を落としたとしばしば論じられる。大鎌をたずさえ時を刻む老人「父なる時(ファーザー・タイム)」の姿は、収穫の鎌をもつサートゥルヌス=クロノスの像に、ギリシアで「時」を意味するクロノスの語が重ねられて生まれた。近世にはゴヤ《わが子を喰らうサートゥルヌス》が、子を呑む神の主題を凄絶に描いた。天体の土星(サターン)と、週の土曜(Saturday)にも、その名は残る。
領分・別名
親・配偶者・子までを表示(全体はフル系図ページへ)。実線=主要伝承/点線=異伝・別系統。