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アムピトリーテー
PLATE — AMPHITRITE
HELLAS · ギリシア神話
AMPHITRITE

アムピトリーテー

Amphitrite

Marie-Lan Nguyen (2010) PUBLIC DOMAIN

ギリシア神話の海の女王。ポセイドーンの妃で、海神ネーレウスの娘たちネーレーイデスの一人に数えられる。詩では海そのものを指す語としても用いられた。

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解説

概要

アムピトリーテー(Ἀμφιτρίτη / Amphitrite)は、ギリシア神話における海の女王である。ポセイドーンの妃として知られるが、この配置はオリュンポスの神統が整えられたのちのもので、それ以前には海そのものを体現する女神であった痕跡が残る。名は「まわりを取り巻く第三のもの」すなわち海と解されることが多いものの、語源は確かでない。

神話・物語

ヘーシオドス『神統記』は、アムピトリーテーをネーレウスドーリスの娘たち、すなわちネーレーイスの一人に数える。一方アポロドーロスは、ネーレーイデスの一覧にもオーケアニデスの一覧にも同じ名を挙げており、水の女神群の区分が古代においても厳密でなかったことがうかがえる。

ポセイドーンとの結婚には二系統の話がある。エウスタティオスが伝えるのは、ナクソス島で姉妹たちと踊っているところを見初められ、そのまま奪われたという筋である。もう一方、エラトステネースとヒュギーヌスが伝える筋では、アムピトリーテーは求婚を厭って海の西の果て、アトラースのもとへ逃れた。ポセイドーンが遣わした一頭のイルカが島々を探し歩いて彼女を見つけ出し、言葉を尽くして説き伏せたので、婚姻が成った。褒美としてイルカは天に上げられ、いるか座になったという(カタステリスモス)。オッピアーノスはほぼ同じ話を伝えるが、隠れ場所をオーケアノスの宮殿とする。

アテーナイの英雄テーセウスの物語にも登場する。クレータへ渡る船上で、ミーノースがテーセウスの父はポセイドーンだという主張を疑い、指輪を海に投げ入れて取ってこさせた。海に潜ったテーセウスをイルカが宮殿へ運ぶと、アムピトリーテーは指輪とともに真紅の外套と花冠を授けた。バッキュリデースの断片は、この女神を「牛の目の畏き」と呼び、婚礼の冠を英雄の頭に置かせている。神の子であることの証明を、父ではなく妃が与えるという構図である。

ホメーロスの用法は示唆に富む。『オデュッセイア』では「アムピトリーテーの波」「呻くアムピトリーテー」といった言い回しが用いられ、人格をもつ女神というより海そのものを指しているように読める箇所がある。ジェイン・エレン・ハリソンは、ポセイドーンがまだ海の主でなかった古い層では、海はアムピトリーテーとネーレーイデスのものであり、トリートーンたちがその配下だったのだと論じた。これは前20世紀初頭の学説であって原典の記述ではないが、ホメーロスにおいてこの女神が「ネプトゥーヌスの妻」になりきっていないという指摘そのものは、いまも重みを持つ。

図像と象徴

固有の持物をほとんど持たないことが、この女神の図像上の難しさである。壺絵やモザイクにおいて、アムピトリーテーを他のネーレーイデスから見分けるのは、女王としての属性――王妃の衣、玉座、随行者――だけであることが多い。目印として挙げられるのは、髪をまとめる網と、こめかみのあたりに添えられた蟹の鋏である。後者は海の生き物を身にまとう海神の表現の一種で、ポセイドーンやトリートーンの図像にも通じる。

構図としては、ポセイドーンと並んで玉座に坐すか、海馬ヒッポカムポスの引く車に夫と同乗する姿が定型となる。周囲にはトリートーンたちとネーレーイデスが従う。本項に掲げたペンテスクーフィア出土のコリントス式奉納板(前575年から前550年頃、ルーヴル美術館)は、粘土板に線描で神々を表した簡素な作で、こうした定型が固まる以前の姿を伝える。奉納板そのものは陶工たちがポセイドーンに捧げたもので、海の神への祈りが日常の生業と結びついていたことを示す資料でもある。

祭祀の場に単独で祀られることはまれだった。パウサニアースがコリントス地峡のポセイドーン神殿で神像を見たと記すのが、数少ない例である。海を司る神として夫が意識される場面でのみ、妃も並べられたということになる。

系譜と関係

父ネーレウス、母ドーリス。夫ポセイドーンとのあいだに、上半身が人で下半身が魚の海神トリートーン、太陽神ヘーリオスの妻となったロデー、エウモルポスを育てたと伝わるベンテシキューメーをもうけた。なおロデーについては、ポセイドーンとハリアーの娘とする伝えや、河神アーソーポスの娘とする伝えもある。三人の子を月の三相の反映と読む解釈がロバート・グレーヴスによって示されているが、これは20世紀の解釈であって古代の伝承ではない。

ローマでは海水の女神サラーキアと同一視された。ただしサラーキアはもと泉の水の精であり、ネプトゥーヌスがポセイドーンと重ねられるのに伴って性格が変わったもので、来歴は共有しない。水神・海神のファセットのなかでは、海を支配する神ではなく海そのものを体現する神という、やや古い層に属する。

文化的足跡

エウリーピデース『キュクロープス』やオウィディウス『変身物語』では、その名は単に「海」の言い換えとして用いられている。神格が普通名詞へ還っていく過程が、古代の詩のうちにすでに見てとれる。イギリス海軍は七隻の艦にこの名を与え、小惑星帯の第29番小惑星にもその名が冠されている。

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領分・別名

INTERPRETATIO — 同一視・同源
サラーキア ローマ神話 同一視
ネプトゥーヌスがポセイドーンと重ねられるのに伴い、その妃サラーキアがアムピトリーテーと同一視された。サラーキアは本来は泉の水の精霊。

親・配偶者・子までを表示(全体はフル系図ページへ)。実線=主要伝承点線=異伝・別系統

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資料

Wikidata
Q180222 — 骨格データの出典
Commons
Amphitrite — 図像カテゴリ