カリュプソー
カリュプソ · カリプソ · Kalypso
オーギュギアー島に住むギリシア神話の女神。漂着したオデュッセウスを七年ひきとめ、不死まで約束したが、ゼウスの命に従って帰した。
解説
概要
カリュプソー(Καλυψώ / Kalypsō)は、絶海のオーギュギアー島に住む女神である。名は動詞カリュプトー(覆い隠す)に由来し、人目から隔たった島に英雄を隠して留めるというその役どころと重なる。
『オデュッセイア』の時間の上では、彼女のもとで過ごした年月が最も長い。キルケーの島の一年に対し、こちらは七年(五年とする伝えもある)。冒険が止まっている期間であり、詩はこの島の場面から語り起こされる。
神話・物語
洞窟の周りにはハンノキとポプラと糸杉が茂り、葡萄の蔓が入口を覆い、四つの泉が四方へ流れ出す。杉と香木を焚く炉の香りが島を満たす。ホメーロスは、神々さえ足を止めるであろうこの島の描写に長い行数を割いている。
漂着したオデュッセウスを彼女は深く愛し、不死と不老を与えると申し出た。それでも英雄は毎日海を見て泣いた。ついにゼウスの命令を携えたヘルメースが訪れると、彼女は神々の身勝手をなじる。女神が人間の男を愛することを、神々は許そうとしない、と。エーオースとオーリーオーン、デーメーテールとイーアシオーンの例を挙げての抗議である。
それでも彼女は従った。害意のないことを冥界の河ステュクスにかけて誓い、筏に適した木の在処を教え、帆布を織り、食料と葡萄酒を積み、衣を着せ、順風を送る。大熊座を左手に見て進めという航法まで授ける。別れの場面としては異例に実務的であり、そのことが彼女の立場をかえって際立たせている。
愛のあまり自ら命を絶ったとする後代の説もあるが、ホメーロスにはない。
図像と象徴
古代の作例は確認されていない。銘を伴う壺絵も彫刻も知られておらず、キルケーやセイレーンのような図像の型を持たなかった。長大な滞在でありながら事件の起きない期間であることが、絵にならなかった理由と考えられる。
本ページの主画像はアルノルト・ベックリンの《オデュッセウスとカリュプソー》(1882年、バーゼル市立美術館)で、古代の作例ではない。岩に立って海を見つめる黒衣の男と、洞窟の暗がりに赤い衣で座る女を、青と赤の対比で隔てて描く。留める者と去る者の距離を、色そのもので示した構図である。
系譜と関係
ホメーロスは三度、天を支える巨人アトラースの娘と呼ぶ。ヘーシオドスはオーケアニスの一人とし、アポロドーロスはネーレウスの娘ネーレーイスの一人とする。ヒュギーヌスはプレイアデスに数える。系譜は資料ごとに割れており、一本化されていない。
オデュッセウスとの子として、ナウシトオスとナウシノオス、あるいはラティーノスの名が挙がる。ラティーノスはキルケーの子ともされ、ローマの建国伝承へ接続しようとする後代の操作が、二人の女神の双方に及んでいる。
文化的足跡
オーギュギアー島は古代からマルタ沖のゴゾ島に比定され、シャーラには「カリュプソーの洞窟」と呼ばれる場所がある。土星の衛星カリプソは彼女にちなむ。
領分・別名
親・配偶者・子までを表示(全体はフル系図ページへ)。実線=主要伝承/点線=異伝・別系統。