ビーシュマ
デーヴァヴラタ · ガンガープトラ · シャーンタナヴァ
クル族の大長老。父のために王位と結婚を捨てる誓いを立て、死期を自ら定める力を得た。両陣営の大伯父として戦場に立った人物。
解説
概要
ビーシュマ(Bhīṣma / भीष्म)は『マハーバーラタ』の登場人物で、クル族の王シャーンタヌと河の女神ガンガーの子である。本名はデーヴァヴラタ。父の再婚を成立させるために王位継承権と生涯の独身を誓い、その凄まじさゆえにビーシュマ(恐るべき誓いを立てた者)と呼ばれるようになった。誓いへの報いとして、自らの死期を定める力を授かる。パーンダヴァとカウラヴァ双方の大伯父にあたり、比類なき射手としてクルクシェートラの戦いでカウラヴァ側の初代総大将を務めた。
神話・物語
前世はヴァス神群の一柱プラバーサであったとされる。聖仙ヴァシシュタの牛を盗んだ罪で人として生まれる呪いを受け、実行犯であったために長く地上に留まることとなった。母ガンガーは彼を各地へ伴い、ブリハスパティから王の徳と政治を、シュクラから統治術を、ヴァシシュタからヴェーダ補助学を、パラシュラーマから兵法を学ばせたと伝えられる。
誓いの経緯はこうである。父シャーンタヌが漁師の娘サティヤヴァティーを望んだとき、その父は、娘の産む子が王位を継げないなら嫁にはやらぬと答えた。デーヴァヴラタは自ら王位を捨てると告げたが、それでもその子が継ぐであろうと反論される。そこで彼は生涯独身を誓った。王位も家庭も捨てたこの一言に、神々は死期を自ら選ぶ力をもって報いたという。
異母弟の妃を得るため、彼はスヴァヤンヴァラでアンバー、アンビカー、アンバーリカーの三姉妹を勝ち取った。ところがアンバーには恋人があり、送り返された先で拒まれる。行き場を失った彼女はビーシュマに婚約を求めたが、誓いを理由に断られた。憤ったアンバーは何度生まれ変わってでも復讐すると誓い、パラシュラーマに訴える。師弟の決闘は二十三日続いても決着せず、彼女は苦行の末にシヴァから来世で男として生まれ変わるという約束を得た。この誓いは、シカンディンとしてクルクシェートラの戦場に戻ってくる。
戦の十日目、パーンダヴァ側は女として生まれた過去をもつシカンディンを前面に立てた。ビーシュマは彼に矢を向けることを拒み、その隙にアルジュナの矢を全身に受けて倒れる。矢の上に横たわったまま死期を選ばず、冬至を過ぎて太陽が北へ転じるのを待って世を去った。
図像と象徴
矢の床(シャラシャッヤー)に横たわる姿が、この人物を示す最も有名な図像である。全身を貫いた矢が地に触れさせずに彼を支えるという構図は、寺院彫刻や細密画に繰り返し表された。白衣の戦士シュヴェータヴィーラの異名も伝わる。
系譜と関係
父はシャーンタヌ、母はガンガー。異母弟にチトラーンガダとヴィチトラヴィーリヤがおり、いずれも子を残さず早世したため、継母サティヤヴァティーが婚前に産んでいた聖仙ヴィヤーサが招かれ、ドリタラーシュトラとパーンドゥが生まれた。両者の子であるカウラヴァとパーンダヴァにとって、ビーシュマは大伯父にあたる。両陣営を等しく慈しみながら、王家に仕えるという誓いゆえにカウラヴァ側に立たざるをえなかった。
文化的足跡
臨終の床で、彼はユディシュティラに統治と法をめぐる長大な教えを説く。『マハーバーラタ』第十二巻シャーンティ・パルヴァンと第十三巻がこれにあたり、インドの政治思想と倫理思想の主要な典拠となった。ヴィシュヌの千の名を数える『ヴィシュヌ・サハスラナーマ』も、この場で授けられたとされ、今日も日々唱えられている。他方、骰子賭博の席でドラウパディーが辱められるのを黙って見ていたことは、叙事詩自身によって厳しく難じられている。誓いを守り抜くことが、必ずしも正しさに一致しないという主題が、この人物には集約されている。