シカンディン
シカンディニー · スリカンディ(ジャワ) · アンバーの転生
ドルパダの子で、ビーシュマに復讐を誓った王女アンバーの転生とされる。ビーシュマが矢を向けることを拒んだため、その死の契機となった。
解説
概要
シカンディン(Śikhaṇḍin / शिखण्डिन्)は『マハーバーラタ』の登場人物で、パンチャーラ王ドルパダの子である。もとはシカンディニーという名の娘として生まれ、のちに男性となったと語られる。前世はビーシュマに復讐を誓ったカーシー国の王女アンバーであるとされ、クルクシェートラの戦いではその誓いを果たす位置に立った。ビーシュマが彼に矢を向けることを拒んだことが、大長老の死の直接の契機となる。
神話・物語
前世の経緯は次のように語られる。カーシー国の長女アンバーは、妹アンビカー、アンバーリカーとともに婿選びの場からビーシュマに連れ去られ、ハースティナプラのヴィチトラヴィーリヤの妃とされようとした。サウバラ王シャールヴァと婚約していると告げると、ビーシュマは受け入れて彼女を送り返す。しかしシャールヴァは、ビーシュマに敗れて奪われたことを恥じて彼女を拒んだ。行き場を失ったアンバーはビーシュマのもとへ戻って結婚を求めたが、不淫の誓いを立てた彼はこれを断る。
恨みを抱いた彼女はビーシュマを討つことを誓い、諸王に戦を挑むよう説いて回ったが、誰も大戦士の怒りを買うことを恐れて応じなかった。ビーシュマの師パラシュラーマを動かすことには成功したものの、二十三日に及ぶ決闘も引き分けに終わる。ラージャゴーパーラーチャーリの要約が伝えるところでは、彼女は苦行の末にスカンダから青蓮の花環を授かった。これを身に着けた者がビーシュマに死をもたらすという。しかし花環を受け取って味方となる者は現れず、彼女はそれをドルパダの宮門に掛けて苦悶したと語られる。そしてドルパダの娘シカンディニーとして転生する。
性の転換については、伝えが複数ある。ヴィヤーサの『マハーバーラタ』が語るのは、ヤクシャとの交換である。ドルパダは娘を息子として育て、娘を娶らせた。妻が実家に不平を漏らしたため、王が真相を探ろうと人を遣わすと、シカンディニーは森へ逃げ込む。そこで出会ったヤクシャと一時的に性を交換したが、その間にヤクシャの王が配下の変異を見咎め、シカンディンが死ぬまで戻せぬようにと呪いをかけた。これによって転換は生涯のものとなったとされる。ラージャゴーパーラーチャーリの要約はこれと異なり、宮門の青蓮の花環を見つけて首に掛けたシカンディニーが、王国を去って森で苦行し、そこで男性となったとする。さらに別の系統では、はじめから男性として生まれ、シヴァの恩寵によって前世の記憶を取り戻したと語られる。どの筋を採るかによって、この人物の性格づけはかなり変わる。
戦の十日目、ビーシュマは彼がアンバーの転生であることを見抜き、女性であった者には武器を向けぬという信条から弓を下ろした。ビーシュマがそう振る舞うと見越していたクリシュナの助言に従い、アルジュナはシカンディンを前に立てて矢を射かける。こうして大長老は矢の床に倒れた。前世からの誓いは、自らの手ではなく、自らの存在によって果たされたことになる。
図像と象徴
固有の像容は伝わっておらず、独立した礼拝像の伝統もない。図像に現れるとすれば、ビーシュマ討伐の場面でアルジュナの前に立つ姿である。象徴となるのは青蓮の花環であり、前世と現世をつなぐ標として機能する。
系譜と関係
父はドルパダ、弟にドリシュタデュムナ、妹にドラウパディー。子にクシャトラデーヴァがある。前世をアンバーとする点でビーシュマと結ばれ、その関係が生涯を規定した。パーンダヴァ側に立って戦い、十八日目の夜、アシュヴァッターマンの襲撃によって兄弟らとともに討たれた。
文化的足跡
インドネシアの影絵芝居ワヤンではスリカンディの名で登場し、弓の名手として広く親しまれている。ジャワの伝承では性の転換の主題が薄れ、勇敢な女性の武人として造形されており、インドネシア語では今日でも勇ましい女性を指す語として用いられる。
近現代のインドでは、性別を越えて生きた人物としてしばしば言及され、トランスジェンダーやノンバイナリーの立場から古典に先例を求める議論のなかで参照されることが多い。デーヴダット・パトナーイクの『シカンディ』(2014年)はその代表的な著作である。ただし原典の関心は個人の性自認にあるのではなく、前世の誓いがどのように果たされるか、そして女性であった者に矢を向けぬという規範がいかにして武人の死をもたらしたかという点にある。現代の読みと原典の主題は、区別して扱う必要がある。